合縁奇縁

 日が少しずつ落ちてきて、少し肌寒くなってきた。真っ赤に染まった冬空を眺めていた目を落とし、隣で縮こまって座っている氷見さんを見る。さて、ついさっき勢いで歯が浮くようなセリフを言ってしまったわけだが、よくよく考えたら私と氷見さんの仲はちょっと仲のいいクラスメイト程度。諸々のステップをぶっ飛ばしてあんな事をしてしまった私たちの間には微妙な空気が流れていた。


「……あの」

「えっ、はい」


 急に声をかけられてぎこちない返事をしてしまう。でも、彼女にそんなこと気にする余裕はなさそうで、自分から声をかけたはずなの次のセリフを言う事を躊躇っているようだった。


「ごめんなさい、巻き込んでしまって」


 彼女は意を決して謝罪し、深々と頭を下げた。


「えっ、あっと、大丈夫大丈夫!気にしないで!私が勝手にやった事だからさ」


 好きな相手に頭を下げられては堪らない。慌てて氷見さんは悪くないと伝えて、頭を上げさせる。赤く腫れた目元のせいか、かなり消耗しているように見えた。


「でも、あんな騒ぎを起こしたらタダじゃ済まないよ。私のせいで陽向さんが退学になったら……」

「そんなことならないって!あの男どもにそんな度胸あると思う?ナンパしたら殴られましたーって。そんな恥ずかしいこと言えるわけ無いし、もし言ってきたとしても悪いのはあいつらだよ」


 慌ただしく身振り手ぶらしながらあれこれ言葉を並べて、必死に私は大丈夫だとアピールする。私自身にも言い聞かせてる部分も少しあるかも。すると、彼女は潤んだ瞳で私の顔を見つめて、か細い声でこう呟いた。


「なんでそんなに優しいの……」


 胸がキュッと締め付けられる。このままの勢いで「好きだから」と伝えたいが、いくらなんでもそれは恥ずかしいし、消耗している彼女にそんな事を言うのは、なんだか弱みに付け込んでいるような気がして憚られた。


「ナンパってのが気に食わないだけだよ。別に私が優しいからやった事じゃ無い」


 格好良さげな嘘をついてみる。ナンパが気に食わないっていうのは本当だけど、されているのが氷見さん以外なら多分助けてない。……なんかそれ酷いな。自分で言っててなんだけど。


「でも陽向さんが助けてくれたのは本当だよ!えっと、だから、私に何か恩返しをさせてください!」


 照れ隠しに頭を掻いていたら、彼女が詰め寄ってきてまさかの提案をしてきた。勢いに気圧されて、思わず少し後ずさる。彼女の青い瞳はジッと私を見つめていて、今か今かと私の返答を待っている。


 しかしまぁ、なんと魅力的な提案だろうか。自分から見返りを求めるのはダメな気がしていたから、正直かなり嬉しい。頭の中でちょっとやましい事とか、普通のこととか、俗っぽいこととかを織り交ぜて、彼女の恩返しの案をまとめる。そして、なんとか纏まった提案を彼女に伝えた。


「私と友達になってくれない?」

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