浮気をしても反省しない彼女への愛が冷めてしまった話

ハイブリッジ

第1話

<自宅>


「ただいまー」


 夜の10時を過ぎ同棲中の彼女である瑞穂夏帆みずほかほが帰宅してきた。


「あれいるのに返事なし? ただいまー」


「……」


「どうしたのそんな真剣な顔して?」


「…………昨日と今日どこ行ってたの?」


「えっ? 言ったじゃん。昨日はサークルの友達と一緒に買い物して、今日は居残り練習で遅くなるって」


「……ウソ言うんだね」


「はあ? いやいやだからーー」


 机の上に数枚の写真を広げる。


「な、何これ?」


 写真には夏帆と男性が楽しそうにデートをしている様子が写っている。


「もしかして昨日と今日、私の後追いかけて盗撮したの? ちょっと……さすがに引くわ、キモすぎ」


「……後を追いかけたことは謝るよ。で、でもこれは浮気じゃないの?」


 昨日、今日だけではない。ここ何ヶ月夏帆の僕に対する態度がとても冷たくなっていた。デートに誘っても毎回断られ、家にいる時もスマホを触っている時間が多くなっていた。

 だから不安になって出かけた夏帆の後を追いかけていったら……この写真の通り、別の男性と浮気をしていた。


「だって壮真そうま先輩イケメンだしさ……いいじゃん一回くらい」


「い、一回じゃないじゃん! 前も別の男の人と浮気してたし」


 夏帆の浮気は今回が初めてではない。これで3回目だ。


「も、もう浮気はやめてね。……できれば男の人と二人きりで遊んでほしくなかな」


「はぁ……。あのさ、君ちょっと調子に乗ってるよね?」


「えっ……」


「最近の君さ、束縛がキツ過ぎるし、私が疲れててもお構いなしにいっぱい話しかけてくるし……正直ウザいんだよね」


 夏帆の冷たい目に思わずたじろいでしまう。


「こんなことなら違う人と付き合えばよかったなー」


「えっ……ち、違う人? ど、どうして……」


「当たり前じゃん。だって私モテるんだもん。壮真先輩もそうだけど、君よりもイケメンで人気のある人たちからめちゃくちゃ言い寄られてるんだ」


 知らなかった。確かに夏帆はとても美人で男性からよく声を掛けられているのは知っていたけど、アプローチを受けていたのは初耳だ。


「あまり私の機嫌を損なわない方がいいよ。別れたくないでしょ? 大好きな私とさ」


「…………っ」


「私にあまり干渉しないでウザいから。あとこんな盗撮とか止めてね犯罪だよ……わかった?」


「……うん。ごめんね」


「よし。じゃあおやすみー」


「…………」


 浮気をされるたびに別れようと何度か考えたが、夏帆のことが好きだから別れたくなかった。それに僕も至らない点があったから夏帆が浮気をしたんだと反省をしてきた。


 でも……もう無理かもしれない。



 ■



<翌朝>


 玄関で準備をしていると夏帆が目を擦りながら起きてくる。


「おはよー……ってどうしたのその荷物? こんな朝早くからどっか行くの?」


「……実家に帰るよ」


「は? 実家に帰るって……何で?」


「ちょっと……」


「ちょっとって……大学はどうすんの?」


「実家から通うよ」


「ふーん。まあいいよ別に。私も少し一人の時間が欲しかったし。それでいつくらいに帰ってくるの?」


「………………もう帰ってこない」


「えっ……帰ってこない? ちょっと待ってどういうーー」


 バタン。夏帆の呼び止める声を無視して家から出ていく。


「い、行っちゃった……。まあどうせ二、三日したら帰ってくるでしょ」



 ■



<家を出て1週間後>


「あっ……おはよう」


「………………」


 家出をしてからなるべく夏帆に会わないように行動をしているが、講義室でたまたま会ってしまう。


「ちょっと無視しないで。あのさ、いつ帰ってくるの?」


 隣の席に座る夏帆。


「ほら君の実家から通うとさ遠いじゃん。お金も時間ももったいないしそろそろ帰ってきたらどうかなって」


 実家から大学まで確かに片道1時間以上はかかる。でも帰るつもりはない。


「ねぇいつまでも拗ねてないでさ、この前の浮気の事怒ってるんでしょ? それは私が悪かったって。ほら謝るから。ごめんなさい、もう二度としません」


「…………」


「まだ無視するの? はぁ……そういうの直した方がいいと思うよ。私、反省してるじゃん」


「…………」


 この講義は何回かサボっても単位は取れるので今日はサボろう。席を立って講義室を後にする。


「ちょ、ちょっと」



 ■



<家を出て2週間後>


「こ、ここ空いてるよね?」


「…………」


 食堂で座っていると夏帆に声を掛けられた。僕の返答を待たず夏帆が向かいの席に座る。


「あ、あの、電話やメールとか無視するのやめてほしいな。心配だからさ……。ほら私、君の彼女だし」


「…………」


 最近、夏帆からメールや電話が時間に関係なく頻繁に送られてくる。


「そ、そうだ。これ、お弁当。前にさ手作りのお弁当食べたがってたでしょ? だから作ったんだよ。ほら君の大好きな唐揚げも入れたんだよ!」


 カバンから弁当を取り出す夏帆。ふたを開けると唐揚げや卵焼き、アスパラガスなどが入っていた。彩りも綺麗なとても豪華なお弁当だ。


「これ一緒に食べてさ、仲直りしよ?」


「……もう食べ終わったから」


「えっ……そ、そっかもう食べたんだ。は、早いね。じゃ、じゃあ明日もまた作ってくるからさ明日は一緒に食べよ?」


「…………いらない」


「あっ…………」


 もうこの時間にここの食堂を使うのは止めよう。



 ■



<家を出て一か月後>


「……っ!?」


「あっ……やっぱり今日○○先生の講義受けてたんだね」


 講義を終えて部屋から出ると外で夏帆が待っていた。この講義を取ってるの夏帆には言っていないはずなのに……。


「ね、ねえもう帰るよね? あのね近くにすごく美味しいカフェ見つけたから一緒に行こうよ。私奢るから」


「……壮真先輩と行ってきなよ」


「壮真先輩は関係ないじゃん。……わ、私は彼氏の君と行きたいんだよ!」


「…………」


「ま、待ってよ……」


 どうして今さら僕にこんなに接してくるのだろう。



 ■



<家を出て〇ヶ月後>


「えへへ……ごめんね呼び出しちゃって」


 ある日、僕宛に『話したいことがあるので〇曜日の△時に***講義室に来てほしい』という内容の手紙が届いた。怪しいが行ってみると講義室には夏帆が待っていた。


「あっま、待ってお願い!? 話を聞いてほしいの!!」


 部屋から出て行こうとすると必死に呼び止められる。


「……なに?」


「う、うんありがとう。……そ、その、本当にごめんなさい。も、もう無視しないでください」


 深く頭を下げる夏帆。話したいこととはどうやら謝罪のことらしい。


「すごく寂しいの君に無視されると。……こ、心がグッと締め付けられるの」


 顔を上げると夏帆は涙を流していた。


「……夏帆は僕に干渉してほしくないんだよね」


「そ、それは……。あ、あの時はつい勢いでそう言っちゃっただけなの。本当はそんなこと一ミリも思ってない。だから取り消してもいいかな」


「…………」


「あのね、君が家からいなくなってずっと考えたの。君が私以外の女性とデートとかキスとかしてたらって……。そしたらもう落ち着かなくて、考えてると眠れなくて嫌で嫌で嫌で嫌で仕方なかったんだ」


夏帆は手の甲を強く引掻いていて、血が滲にじんでいる。


「こんな気持ちを君にさせちゃってたんだね……。もう浮気なんてしないよ。君だけをみるから」


「……僕なんかよりもいっぱい良い人がいるんだから僕のことは忘れてよ」


「そ、そんなことない! 君よりいい人なんていないよ」


「…………」


「ね、ねえ家に帰ってきてよ。毎日君の好きなもの作って待ってるよ」


「…………」


「そ、そうだ。見てみて! 君以外の男の連絡先全部消したんだよ、ほらっ! だって私は君の彼女だから。男の連絡先があったら不安だもんね」


 スマホの連絡先の画面を見せられる。


「家に帰ってさ、いっぱいいっぱいイチャイチャしようよ。手を繫いで抱き着いてキスして……」


「夏帆は僕とそういうことするの嫌がってたよ?」


「……ううん嫌じゃない。むしろしたい。だからーー」


 夏帆が近づいてくると抱きしめようとしてきたので、距離を取って避ける。


「な、なんで……抱きしめさせてよ。君に触れさせてよ……」


「もう夏帆とは付き合えない。……別れてほしいんだ」


「えっ…………い、いやっ……えっ? 別れる? わ、別れるって……君と私が他人になるってこと?」


「僕は夏帆のことすごく好きだったけど、夏帆はそうじゃなかったみたいだし」


「わ、私も君のこと大好きだよ!! ううん愛してる!! 君以外考えられない………………待って。す、って……どういう」


「もう夏帆のことは好きじゃない。疲れたんだ。ごめんね」


「そ、そんな…………いやだ」


「じゃあね。その……もう僕に関わらないでくれると嬉しい」


「いや……まって。待ってください!! だって私、君がいないと……し、死んじゃうかも。ううん死んじゃう……いいの!? 大好きな彼女が死んじゃうんだよ!! 」


「……ごめんね」


「ほ、本当に行っちゃうの……い、嫌だっ!! 絶対に別れないからねっ!!」




「…………絶対に逃がさない。君は私の彼氏だもん」




終わり


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