第3話 「マシュマロみたいに柔らかいよ?」
コンコンと誰かが俺の部屋のドアをノックする。そして返事をする前に開けられた。
「カズく〜ん! お風呂沸いたよ〜」
「……なぜ千佳が風呂の準備を!? つーかまだ帰ってなかったのか?」
「うん? 千佳帰らないよ? むしろ泊まるよ?」
「何故に」
「だってまだ洗濯残ってるし、明日のお弁当の準備もあるし」
「……待て。待て待て待て。ちょっとお前が何を言ってるのかわからないんだが? 洗濯? 弁当? どうして? Why? 泊まるってなんだ!? 母さんは!?」
「あのね? お兄ちゃんが今日から一年間沖縄勤務なの。それで一人で行かせるのが可哀想だからってお
「やぁめぇろぉ! 人の母親をお義姉さんって呼ぶなぁ!」
「え〜! だって詩織さんはお兄ちゃんの奥さんなんだもん。それならお義姉さんで良いでしょ?」
そう。俺の母さんである
ってそれはもうどうでもいい。それよりもだ!
「一緒に行ったってなんだそれ! 俺聞いてねぇぞ!?」
「ソウナンダー」
「……おい」
「ナ、ナニカナ?」
「お前知ってたろ? 知ってて黙ってたろ?」
俺は寝転んでいたベッドから起き上がると千佳に詰め寄る。
「ん、いいよ……」
「おいコラ。目を閉じるな口を突き出すな。何もしないしする気もないわ」
「しょぼん……」
ホントにコイツは!
「いいから聞いたことに答えてもらおうか」
「…………えへっ?」
「えへっ? じゃねぇぞコノヤロウ! 何を企んでんだ!?」
「何も企んでないよ!? 二人きりになるのをカズくんが事前に知ってると警戒して千佳を家に入れてくれないと思って黙って行くようにお願いしてこの一年で既成事実作っちゃえ♪ くらいしか考えてないもん! ……ん? あれ? ねぇカズくん、なんで背中を押してるの? 触るなら背中じゃなくて前の方を──」
「…………」
俺は無言のまま廊下に向かって千佳の背中を押す。クラスの男子が見たらきっと羨ましがるだろう。もしこんな風に千佳に触れれば緊張で手汗をかいてることだろう。俺は恐ろしくて冷や汗かいてるけどな!
「え? え? カズくん?」
「…………」
押し続けて千佳の体が完全に廊下に出た時、俺は自分史上最速でドアを閉めてカギをかけた。
「なんでぇ!?」
「なんでもじゃ! 自分で何を言ったのか胸に手を当ててよく考えてみろ!」
「自分で言うのもアレだけどマシュマロみたいに柔らかいよ? あ、もしかしてもう少し大きい方がいいとか? 今はCカップだけど頑張ればきっとDカップに!」
「そういうことじゃないんだが!?」
そのあとはまったく意味の無い問答を繰り返し、一緒に風呂に入ってこようとする千佳を母さんの部屋に閉じ込めてササッと体を流して自室に逃げ込んだ。
つ、疲れる。え? 一年間これが続くのかよ……。
◇◇◇
翌日、クラスの人気者の千佳は友達と一緒に行くらしく早くに家を出た。
俺はゆっくりしてから家を出て、まったりと歩いていたんだけど、
「瀬乃くん、ちょっといいかしら」
「…………須賀か」
どうやらそれは無理みたいだ。
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