第2話 「断るのを断るもん!」
「そ・れ・で、瀬乃君は須賀さんに何を言ったのかなぁ〜?」
ここは職員室。直立不動で立つ俺にペン回しをしながらそんな事を言ってくるのは、担任の
「亜子ちゃん先生、『そ・れ・で』なんて言い方が許されるのはもっと若い子ですよ」
「あぁ?」
そして元ヤン。
「いえ、なんでもないです。すいません。亜子ちゃん先生超可愛い超若い! だからペンを折ろうとしないでください。ペンが可哀想」
「んふっ♪ わかってくれたならいいのよん♪」
「おぅふ……」
見ていて辛いぞコレは。
「で、質問に戻るわね。なんて言ったの? 須賀さんが教室飛び出るなんてよっぽどの事よ?」
「わかりました。言います。言いますけど、最初にこれだけは言わせてください」
「なぁに?」
「さっきから胸元見えてます。なんでわざとボタン外したんですか」
そうなのだ。この先生、俺と向き合った時に何故かボタンを一つ外して少し前屈みになってきたのだ。そのせいで谷間と赤い下着がチラチラと視界に入ってくる。
「あ、見たのぉ〜? 責任とって結婚してね?」
「それで須賀の事なんですけど──」
「結婚して」
「実はさっきの授業中にですね?」
「結婚して。もう誰でもいいの」
「俺に冤罪がかかりそうになったんですよ」
「お金だけならあるから」
「いいから話聞けや」
「ちぇっ……」
ちぇっ、じゃないが?
「それでその内容なんですけども、あの時、須賀が屁をこいたんです」
「…………へ?」
「はい。その屁です。それなのに須賀の奴、知らないフリをしたんですよ! だからすぐ後ろにいた俺のせいにされそうになったんです! 周りの女子には軽蔑の眼差しで見つめられたんです! だから『あれ? もしかしてコイツ俺の事好きなのかな?』なんて思う暇もありませんでした! だから俺は言ってやったんです」
「……なんて言ったの?」
「それは……」
「それは?」
「実は……」
「実は?」
「くっ! これ以上は俺の口からは……」
「いいから言いなさい?」
「あ、はい。で、『須賀がガス出したな?』って本人に言ってやったんですよ。そしたら俺にバカって言ってから教室から飛び出しました。不思議ですね」
「…………はぁぁぁぁ」
何故だ。クソデカため息吐かれた。俺はなにも悪いことしてないのに。
「あのね瀬乃君。須賀さんは女の子なのよ? それなのにそんな事言ったらダメでしょう? そこは庇ってあげても良かったんじゃないかなぁ?」
「断固お断りします」
「え、えぇ〜……」
「男とか女とか関係ないと思うんですよね。人間なんだから屁なんて誰でもする生理現象なんです。だから俺のせいにされるのは嫌だ! 例え相手が可愛くてもお断り! 結局あの後特に騒ぎにもならなかったし。あれで犯人が俺だったら絶対みんなバカにしてくるんだ! くそっ! 可愛いだけで許されると思ってる奴ら全員鞄のチャックが内側の縫い合わせ噛んで壊れればいいのに」
「な、なんて地味で陰湿な事考えてるのよ……」
「という訳で、聞かれたことに答えたので帰ります」
「あ、待って待って」
「なんですか?」
「あの後すぐに戻って来たからいいけど、一応謝っておくのよ?」
「もちろんお断りします! 失礼しました!」
「あっ! ちょっと!?」
亜子ちゃん先生の制止の声も無視して俺は職員室から出た。そしてそのまま靴を履き替えて家に向かう。今夜は確かハンバーグって言ってたからな。早く帰らないと。
◇◇◇
「ただいま〜」
「あ、おかえりカズくん。ご飯もう少しだよ」
「ハンバーグだよな? 付け合わせはもちろん──」
「ポテトサラダでしょ? ちゃんと作ってあるから早く手を洗ってきてね」
「へいへーい」
言われた通りに手を洗って、ついでに部屋着に着替えて戻ってくるとテーブルの上には皿に盛られたハンバーグ。付け合わせはポテトサラダとブロッコリーにスイートキャロット。まるでレストランみたいだ。
「それじゃ食べよ?」
「おう」
「はい、手を合わせて……」
「「いただきまーす」」
うん。ハンバーグ美味い。最高。美味い!
「ねぇ、カズくん?」
「ん? なんだ?」
「今日須賀さんとなんかあったの?」
「んにゃ。とくになんも?」
「ホント?」
「ん〜? あったと言えばあったけど、俺は悪くない。絶対に!」
「はぁ……。カズくんがそう言う時って大体ろくな事してない時じゃん……」
そう言って呆れたような顔で俺を見てくる俺の通ってる高校の制服を着た女の子。
彼女の名前は
そして──
「なんだよそれ。失礼だな。千佳には関係ないだろ?」
「関係あるよ〜! だってほら……ね? カズくんは千佳の旦那様になる人なんだよ?」
「付き合ってもないのになんでそうなる」
「じゃあ付き合って!」
「断る」
「断るのを断るもん!」
なぜか俺の事が好きらしい。
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