第4話 「黙りなさい。それ以上言ったら……」

 目の前に立つ須賀莉奈の鋭い視線は俺を捉えて離さない。しかも俺の方が背が高いハズなのに、何故か見下ろされてるような気分。


「なにか用か?」


 このまま睨み合ってもしょうがないから、とりあえず声をかけてみた。


「当たり前でしょ。用が無かったらアンタなんかに声かけないわよ。用があっても声かけないわよ」


 ひでぇ言い草だなぁオイ!


「お前、矛盾って言葉知ってるか?」

「お前って呼ばないで」

「わかったよ莉奈」

「だ・れ・が、名前で呼んで良いっていったかしらぁ?」


 近い近い近い! そして痛い痛い痛い! 足踏んでるから! くそっ、可愛いからって簡単に引き下がってもらえると思うなよ!


「はぁ? 名前で呼んじゃダメとも言ってないよなぁ? んん?」

「屁理屈を……!」

「おんやぁ? もしかして照れてるのか? はっ! 待ち伏せしてたってことはもしかして俺の事が?」

「嫌いキモいウザいクズゴミ馬鹿」

「き、嫌いだけでいいものをよくそこまで罵倒できるもんだな……」

「当たり前でしょ? だって私、見た目良いしそこそこモテるもの」

「自分で言いやがったな」

「いい? 自信を持つことは大切なの。客観的に見た自分を理解する事で分かることもあるのよ──ってなんでこんなことをアンタに言わなきゃいけないのかしら」

「お前が勝手に言ったんだけどな」

「うるさいわね。まぁいいわ。本題よ。瀬乃、アンタ昨日の事誰かに言った?」

「昨日? なんの事だ?」

「だ、だから……その、昨日の事よ……」


 なんだ? 何が言いたいんだ? まったくもって要領を得ないな。昨日コイツとなんかあったか? ほとんど話したことな──あ。


「あぁ、昨日の屁の──ふごっ」


 屁の事、と言いかけた俺の口は目に見えない速度で須賀の手によって塞がれてしまった。


「黙りなさい。それ以上言ったら刺すわよ」

「(コクコク)」

「わかったならいいわ。で、言ったの?」

「言ってねぇよ。言うわけないだろうが。どうせ言ったところで誰も信じないし、むしろ俺の事だと思われて終わりだっつーの」

「ホントに? ホントに言ってないのね? その、アンタがいつも仲良くしてる男子とかにも」

「はぁ? 俺が仲良くって誰のこと言ってんだよ」

「……男子よ」

「だーかーらぁー! 男子女子問わず誰にも言ってねぇって言ってんだろうが!」

「信用できないわ」


 コイツはいったい何をそんなに気にしてんだ? そして俺に対してのこの信用の無さはなんなんだ!? 失礼にも程がある。もう知らん。俺は行く。


「む、そこにいるのは一輝か。道の真ん中で何を乳くりあっているんだ? 恥を知れ恥を」


 そこで声をかけてきたのはクラスメイトの高村 亮。背も高く、イギリス人の母親譲りの金髪でハッキリ言ってイケメンだ。モテる。とにかくモテる。しかし彼女はいた事はない。それには理由があるんだけど、なんつーか……まぁ、特殊な性癖だからなぁ……。こいつの理想の条件に合う女の子はそうそういないだろう。


「なんだ。高村か。お前どこをどうみたらそう見えるんだ? どうみても俺が脅迫──」

「た、高村くんおはよ! あのね? 全然そんなことしてないよ? ちょっと瀬乃くんに聞きたい事があって聞いてただけなの」


 ん?


「なるほど。まぁ、一輝だからな。モテるはずもないか」

「うんうん。そうだよ! た、高村くんみたいにカッコよかったら別かもしれない……けど?」


 んん?


「須賀、お世辞を言っても何も出ないぞ。さて、俺はもう行く。お前達も早く行かないと遅刻するぞ」

「あっ、もうそんな時間? ほら、瀬乃くんも早く行こ?

「お前さっきまで俺の事アンタって──」

「えー? そんなこと言ってないよ?」

「…………」


 あれ? これ、もしかして須賀の奴、高村の事……


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