第24話 消去者、発動する
「うわっ、嘘っ! えっ? えええっ?」
「俺、悪いことしたかな」
「さあ、何もないと宜しいのですが」
さっきの俺に対する無礼の罰が当たったのだ、とティリスはそんな顔をして涼しそうに受付嬢を見下ろしている。女は怖いんだよ、まったく。俺はその合間に挟まれ、どうか彼女たちの闘争に巻き込まれませんように、と祈りながら返事を待った。
「あー……これで、直った? びっくりしたーいきなり、エラーが出るんだもの」
なんだ、エラーって? 機械の故障のようなものか?
「それで、どうなの。俺はどうなるんです」
「ああ、失礼したわね。いきなりこの子が測定不能だって言いだすから」
機械はしゃべらないだろう。そんな突っ込みを心で入れつつ、俺はなんとなく予測する。あの端末、魔石板に封じられた測定するというスキルを、俺のスキルが‥‥‥一部とはいえ『消去』してしまったのではないか、と。
「いや俺に言われても、ね。意味が分からないっス」
「そうね、そうよね。これまでも不調があった時はあったけれど、すぐに回復系の補助魔法が走ったはずだし」
ぶつぶつと独り言を唱えるように彼女は言い、また、ペタンっと猫耳を伏せると困った顔をしてこちらを見上げた。
「もう一度、いいかしら」
「はあ」
別に何度でも俺は構わないけれど、その魔石板。その度に故障するんじゃ‥‥‥そう思うとなんだか申し訳ないので、今度は魔力を注ぐことだけに集中する。
さっきはスキルが変化したという報告が欲しくて、つい、『消去者』を使うことをイメージしてしまったからだ。
今度は淵が深紅に染まり、元の朱色に戻った。
「へえ」
と、驚きに満ちた声が受付嬢の口から漏れる。長くて細い尾は、背中でピンっと天井を指していた。
「いいわね、まだ若いのに緑くらいの魔力量がある。ああ、位っていうのはさっきも言った通り、数値化できないのよ、魔力って。その時々で差異が出るし、幅も大きいから位階ごとにとりあえず差別化しているだけなの」
「そんなに先進的な装置があるのに?」
「だって、この世には神にも等しい魔王がいて、その魔王と互角に戦える勇者や、聖女様、剣聖に賢者なんて存在がたくさんいるのよ? どうやってみても、上が高すぎて測定できっこない」
「なるほど」
魔力量は生まれ持ったまま、変わることはない。これは迷信だと、学院で教わったことを思いだした。なにより、選ばれた者以外に比較検討する術がないのだ。だいたい、過去の事例からこれはこの辺りだろう、的な差別分けをしていくくらいしか方法がないというのも、なんとなく納得がいった。
受付嬢の言い分じゃないけれど、だって人間がいくら頑張ったところで‥‥‥さっき実例に挙げられた人物たち以外の俺たちなんて、蟻とドラゴンほどの差があるのだから。
数値化する意味がまるでないのだ。納得である。
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