第23話 進化するスキル
「まあ、そんなにすぐに依頼を受けて現場に行かれても、死人をたくさん量産するだけだし、ね。はい、ここに手のひらを当ててくださいねー」
また、魔石板をこちらに向けてくる。さっきのは黒い縁取りがされていたが、今度は赤い縁取りに変わっていた。どうやら、用途ごとに分けられているらしい。俺はそこに利き腕である左手をそっと押し当てた。
すると、魔石板の枠が深紅に染まり、それから元の朱色に近い赤へと戻る。
「魔力を一度吸収して、それからスキルの再鑑定をするのよ」
さっきから気になっていた再鑑定。
それってもしかして、俺のスキルが『消去者』じゃなくなるかもしれないってことか? そう思って期待したら違った。
スキルそのものは覚醒の儀式から変動することはないらしい。
ただ、修練し、経験を積むことによってそれは進化する、と説明してくれた。
『炎の矢』が『業火の連弾』に進化するように。
それはそれで面白い、と俺は思った。スキルを進化させたら、俺のこれはどんなものになるだろう。
「げ‥‥‥『消去者』って。あ、ごめんなさい」
彼女はあのとき、覚醒の儀式で神官がしたように、非常に嫌なものを見る目つきで俺を見ていた。ティリスが咳払いをして、ようやくそれに気づいたらしい。
こちらはまだ人としてもまともだったというか、素直に謝ってくれた。
「いや、慣れてるから、別に。それより、俺のスキルって進化するの?」
「あーいえ‥‥‥『消去者』に関しては情報がない、と言うかそのー、ね?」
彼女は自分の持つ魔石板を俺にも見せてくれた。
そこにはスキルの欄に『消去者』、とある。その他に備考欄に「雷帝の園」を装着。魔道具、という記述も見られた。
「珍しい魔道具を使っているわね。かなり古い物のはずよ、それ」
「……父親がくれたんだ。俺のスキルを解放しないようにって」
「あーそういうことね。さすがレイドール伯爵様。貴重な品をお持ちだわ」
彼女はしきりに頷いてそう言った。こんな田舎にも親の名前が響いている。当たり前の話だが、俺は父親の手のひらの上で思うように操られているに過ぎない人形だ、と実感する。
「その魔道具の内包している魔力量が大きすぎて、貴方の直接のそれは分からないわね」
打つ手なし、と彼女は両手を広げると、肩を竦めてそう言った。
「すぐには発動しないと思うけれど。だめ?」
「だめじゃないけれど、ここではどんなスキルも発動できないから、やりたいなら再検査する?」
「する、します、やります」
俺はそう言い、腕輪をゆっくりと左手から外してみる。
スキルが発動しない、その意味をよく考えもしないで。
そうして魔石板に再度、手を押し付けると今度は真紅が青に染まるという、奇妙な事態が発生した。
「あれっ! なんで?」
猫耳と尾が騒がしくあっちへこっちへと行き来して、彼女の動揺っぷりを盛大に表現していた。
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