第22話 白の位階

「後は? 何か特別なことでもあるの、お姉さん」

「まだ幾つかあるわよ、とその前に。冒険者の階級についてはこの冊子を読んでおいてね」

「え‥‥‥説明は?」

「口頭でしてもどうせ、みんな覚えてないから。頭の中、筋肉だらけだし」


 なかなかに彼女の毒舌は辛辣に快活に回っているようだ。


「色は七色。白、黒、浅黄、緑、赤、青。‥‥‥と真紅。だけど、真紅は禁忌の色だから、いまはどこも取り扱っていない。色にはそれぞれ三段階あって、こんなふうに」


 彼女は魔石板を操作して、今度は鮮やかな画像をそこに表示した。

 そこには、一番最下層の白の位階をつけた見知らぬ男性が、ギルドの制服に身を包んで立っていた。


 腕の部分がアップになり、隣に三種類の白、が出現する。

 門のところで見た、真横に黑い線が、一から三まで入ったやつだった。


「これで一が最下位。三がその色の一番上。三を超えると、次にレベルアップ――とはなるけれど、数値換算はできないから、そこは扱える魔力量と覚えた法律、スキルに対する知識と経験、それと‥‥‥」

「それと?」

「クエストで特別な功績を残せたら、初心者でも黒くらいにはなれる、かな」

「例えばどんなこと?」


 俺が問うと、受付のお姉さんは金色の猫耳をピクピクと左右に動かし、うーん、と語尾を伸ばした。


「あまり公言できないのよね。それをしちゃうと、それだけを目当てにクエストを選んだり、自分だけは目立とうとするやつも大勢いるから‥‥‥」

「あー、なるほどー」

「強いて言うなら、誰もが褒め称えたくなる何か、を実績として残せたら、それはレベルを上げる際に優遇される、とだけは言えるかも」

「伝説にあるように竜を退治したからとか、魔獣と戦ったりとか、ダンジョンを攻略したりとか‥‥‥そういうのではなく?」

「それはほら、できる人に依頼するから、できて当たり前だし、一人ではできないことの方が多いでしょう? どんなことをするにしても、大きな力を使うと周りに怪我人が出たりするからね」

「ん? どういうこと」

「例えば、こんな薄い魔石板を割るのなら、素手で充分。でも、これを割るためだけに剣を振るったり、攻撃魔法を放つ必要はないでしょう?」


 それはまあ、おっしゃる通りだ。

 どうやら、能力は賢く扱いなさい、とそういうことらしい。


「じゃあ、ここでの説明はそんなとこかな」

「えっと‥‥‥本当にそれだけですか」


 なんだかあっさりとし過ぎてないかなあ、と俺は首を捻る。

 どんなゲームをするにしても、必ず説明書は必要なはずなのだ。

 そう思い、疑問を口にしようとしたら、彼女は猫耳をまたピクピクとさせて、はいこれ、と腕章をくれた。

 そう、あの白に横一文字の入った、最下層の最下層。一番下の最下級の冒険者の証だ。


「登録は、これでおしまい。あとは、スキルの再鑑定と、魔力量の測定とそれに応じた科目を覚えてもらうことになるかな」

「えっ……すぐに戦えたりするんじゃないんだ」

「そりゃそうでしょ」


 と、彼女は呆れたように言った。

 猫耳が同じくピコンッと伏せてこちらに向く。

 後ろではティリスがおかしいのかくすくすと口もとに手を当てて微笑んでいた。

 俺は先走りし過ぎたらしい。反省とともに顔が赤くなるのを感じた。

 しかし、何だ、再鑑定って‥‥‥?


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