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from 宮下ハヤト


✎ …


俺の周りにはいつだって“茶道“があった。

それもそのはず、有名な茶道1家の息子である俺は小さい頃から当たり前のように作法を習っていた。畳の匂いに所々ぼろついてる障子シャカシャカとなる茶筅の音。…大好きなみんながいる和室が俺は大好きだった。


「ハヤト、上手く建てられたな〜」


「ほんと!?とーさんのおしえが、じょーずだから!!」


「はは嬉しいことを言ってくれるね。

でも、これはハヤトが沢山練習したからこんなに上手く出来たんだ。父さんは見てただけだからな〜笑」


優しく頭を撫でながらそういう父。

いつだって、優しくて周りから信頼されている父は尊敬する人であり大切な存在だった。勿論傍で微笑ましくこちらを見ている母と姉も俺にとっても大事な人。この生活がずっと永遠に続くのだと3歳ながらも思っていた。



「おまえが、宮下ハヤトだな」


「連れて行け」


見たことも無い初めて見る大人に手を縛られ

何やら黒いワゴンに連れてこまれた。身動きが出来ず怖くて喋ることも出来ない。どこに向かってるのも分からないまま、一人の男が言った。


“くそ、姉の方いねぇじゃねぇか“


僕だけではなく姉までも何処かに連れていかれそうになっていたのか、…。外でのお稽古をしていた姉を心からナイス!と思ったのはこれが初めてだった。姉までも消えてしまったら1家が崩壊すると思ったから


「まぁいい、こいつだけでも金になりそうだしなぁ?」

「悔やむなら父親を憎めよ?俺らぁじゃない」


突然ブレーキがかかると分かれば、暗い小屋に閉じ込められた。何も見えない。先程入れられる前にボコられたせいか、腕が痛い。


「だれか…助けてよ。」


声なんて届くはずもないのに、精一杯叫んだ。誰かが助けてくれる。僕を探しに来てくれるそう心底思っていた。上の方にある窓から少しだけ光がさしてきた。今日は満月らしい。


「こわいよ。。おとーさん。。」





「っ…!!…夢、か。。」


久しぶりに見た小さい頃の夢。

あの後、誰かが助けてくれて家まで帰ったんだっけ。記憶が曖昧なのも意味がある、あの時過呼吸になって苦しかったことだけは確かで他は覚えていないのだ。思い出したくないんだ。


__一人でいるのことの不安感を。



「あ、ハヤト起きた〜おはよ!」


「げっ…リン。入る時ぐらいノックしてくれ」


「あーごめんごめん。でも、ぶっ倒れてここまで連れてきたのは僕だから良くない?てか最近また寝れてないんでしょ!もー」


プンスカと怒るリンは、“全く、ハヤトは後先考えないですぐ行動起こして自分の限界知らなくて倒れるんだ“って母親のように俺を叱る。その絵面がなんか面白くてつい笑ってしまった。まぁそれでまた怒られるんだけど…


「とりあえず、元気になったみたいだね。

良かった。もうすぐでお父さんの命日だから思い出したのかと思ったよ。」


「…」


「あれっ?もしかして図星?」


「…だったら悪い?」


「悪くないよ、ハヤトにとって尊敬すべき人だったんだもんね。でもさ…あっ!僕やることあったんだった〜!バイバイ〜!!また後で来るね」


何かを言いかけそうになったらすぐこれだ。

全くこいつは…。ため息をひとつこぼし、立ち上がると本が落ちた。


「…父さん」


死ぬ前に最後に出したであろう本。

僕はそれを手に取ると読み始めた。


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