始まり

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from 松島カコ


✎ …


 私の家族は皆仲良くて、それなりに…いや凄く楽しく過ごしていると周りからは思われていたのだろう。父と母は外にいる時だけは絵に描いたような理想の両親だった。ずっと家に帰りたくない。家に帰ったら見えるぐらいにアザをつけられるのを知っているから。ストレス発散用でしかない私の体はボロボロに近く常に長袖長ズボンじゃないと生きていけない姿になっていた。またひとつ増えていくかもしれないと思うとガタガタと震える。そんな私の手を優しく握ってくれたのは兄で、耳元に優しく《俺がいるから大丈夫だよ》と呟いてくれる。兄だって怖いくせに、私を少しでも落ち着かせてくれる兄の存在は大きかった。だからこそ、そんな兄を失ったと知った時の心の心境は初めての気持ちだった。



 ─── 数年前、家族を巻き込む事件が起きた。犯人は未だに捕まっておらず逃亡しているとの事。被害者は三十後半の男性と女性。十二歳の男児が大量の一酸化炭素中毒と大火傷により死亡 ॑ ॑したとのこと。そう私の家族がその被害者に当たっていたのだ。当時八歳だった私には刺激が強く真っ赤に染まっていく家の中お父さんとお母さんはぐったりしており私は大事にしていたぬいぐるみをぎゅっとしているだけ。動けるのは兄だけだった。


 「カコ。もう大丈夫だ俺が…いるからな!」


 優しくぎゅっと抱き締めれば、私を怖がらせないようにしている兄。ここにいたら危ないからと言って外まで抱っこして優しく地面に置いた。離れたくなかった兄の側から。ぎゅっと服の袖を握れば


 「ここで待ってろよ。父さんと母さん助けてくる。」


 「いやだ。行かないでお兄ちゃん。あの人達助けたってまた虐待するだけだよ」


 「…確かにそうかもしれない。でもそれでもあの二人は俺らの親には変わりないだろ?。必ず帰ってくるから。帰ってきたら俺と二人で新しい生活しよう。」



 にこやかに笑ってぽんと頭を撫でながら火の海に飛び込む兄を見たのと同時に爆発音がなる。一気に広がっていく火、確実に兄は死んだと本能で悟った。近くにいた人がどうやら救急車を呼んでいたらしくて私は救急車に運ばれる。


  「お兄ちゃんー!まだ家の中に私の家族がいるの…!嫌だ私も中に行く、離してよ!いやぁだ!!!!」


燃えていく火を消せと声が響くのを最後に

私の意識は途絶えた


────


 「…っ!」


 思い出したくもない、夢。

結局自分だけが助かった。家族、いや親からの愛なんてろくに貰えなかった。兄に会いたい気持ちと当時言われていた暴言の言葉が頭に響く。


 「あれ、息ができな…っ、」

 

 「ゆっくり、深呼吸しよ?」


 「…リン。」


 「大丈夫、僕は離れたりしないよ。」


 縋る気持ちでリンに抱きつけばいつの間に過呼吸は安定してきた。出会って間もないリンの存在はわたしにはとても大きい。



「もう大丈夫。ありがとう」


「いーえ。カコは無理しすぎなんだよー」




優しく笑っていうリンは兄に似ている。

そういえば初めて出会った時もそうだった。

 


 

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