十一月十一日

 忘れるまでの記録。完全に形がなくなるまでの時間。


 小学校の時、「納豆が嫌いだ」と言った。そう、言っていたような気がする。今でも嫌いかどうかは分からない。


 中学校の時、図書室にいた。これ、面白かったですよと本を指さした。「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」。読み終わって、泣いたと感想を貰った。二年後に映画化された。その年に発売されて新刊コーナーに入荷された「君の膵臓を食べたい」も勧めてみた。三年後に映画化された。他には、「浜村渚の計算ノート」シリーズを読んでいた。


 一度だけ、本を貸したことがあった。「幸福な食卓」。瀬尾まいこさんの本だった。四年後に本屋大賞を取った。受賞作「そして、バトンは渡された」は映画化された。今日の金曜ロードショーで放送されるらしい。


 堆積した時間はショートケーキの層のように、大切な本との時間をからめ取って、埋もれてしまう。だから、これは忘れるまでの記録。おいしそうな顔で、頬張るための試食。小さい頃は指折り数えてその時が来るのを待っていたのに、両足の指を入れて何とか足りる歳になった。お祝いのケーキの上にさすのは、トッポでもプリッツでもなく、勿論チョークでも、ポッキーでもなく、ロウソクだった。誕生日おめでとう。そう心の中で言ってみる。

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