六月二十七日
離れなくなるほどに嫌いだと言えるのは、傍にいてくれた時のやさしさを知っているから。それでも、わたしは「離れたい」と思った。
助け合うのが、家族だから。あんたはまだ家に残るんよ。県外の大学はダメやからね。やることはいっぱいあるんだから。掃除に洗濯、その他家事全般。妹の勉強もあんたが見るんよ。エアコン? エアコンなんて我慢しなさい。家賃もちゃんと払ってもらうからね。わたしたちは家族なんだから。
「家族」という言葉の重圧から、逃れたくて、だけどずっと、鎖のようにつながれていて。時々それが、前世からの因縁や呪いのように感じられて怖くなる。真夏の太陽を前にして萎れた花のように、地面にぐったりと沈み込んで、そこから抜け出せずにいる。
まだ気持ちの整理がついていないが、今日、わたしは二十歳になった。大人になっても、結婚しても、ずっとこの生活が続くのかなとぼんやり考える。自立とは名ばかりで、どうやってもまだ両親を頼らざるを得ない。保証人の署名欄が不要になっても、わたしは大学進学費用の額を見て、目眩がしそうになった。
「お金があれば」と考えることはあっても、何がしたいとか、何を食べたいとか具体的にはもう、何も浮かばない。実際にそれが降って湧いてくるようなことは無いし、結局は卑小な妄想でしかなくて、叶うこともお腹が膨れることもないのだと知っているから。実現する訳でもない夢を追いかけるのは無駄だとこれまでも両親に言われ続けてきたから。わたしの想像力の翼は、疾うに折れていた。
お金があっても、得ることができないもの。それが家族だとすれば、わたしにとって、家族ってなんだろう。離れ離れになった状態を想像できないから、見えない愛情で守られて、がんじ絡めにされて、満足を満足だと感じられなくなったような気がする。当たり前のようにいる家族に、本当は感謝しないといけない筈なのに。
せめて、二十歳になれた自分を存分に祝おうと思った。わたしという軸を持って、まっさらな未来に正円を描けるように。今日ぐらい家族のことを忘れて、わたしは、わたしの為に生きようと思った。
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