五月十三日

 目が青いと言われた。母親譲りでも、父親譲りでもなく、ただ俺の目だけが青かった。黒ではあるけれど、近くで見ると、ほんの少し青みがかった、目。視力はよかった。


「目がいい人っていいよね。これ、知ってる?」


 そう言って、朱里に見せられた画面に表示されていたのは、気球の画像だった。


「たしか、眼科の機械で使うやつ」


「へー。目がいい人も知ってるんだ、これ」


 最初から、俺がそう答えることを期待していなかったような、突き放すような言い方だった。

 真っ青な空にぽっかりと浮かんだ小さな雲のように、まるでそれだけが仲間はずれだというかのように。


 それから朱里はぱっと表情をほころばせてから、言った。


「誕生日おめでとう。裕太」


「うん。ありがとう」


 このやり取りに何の意味があるのかと言われたら、勿論生まれたことに対する根源的なおめでとうなんだろうけど、とっくにその意味が失われた状態で俺たちは使っていて。誕生日を覚えていたいだとか、すきな人と誕生日を祝うこの瞬間を共有したいだとか、そういったおめでとうなんだろう、実際。


 プレゼントを、渡される。


「嬉しい?」


「嬉しい」


 共感ほど単純で、打算的で、みにくい言葉を、知らなかった。なにが、嬉しいのかさえ伝えることを省いても、安易に共感できてしまうから。

 それでも俺は、嬉しいと答えた。

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