第42話 カルマンに戻って

 カルマンに戻った俺達は辺境伯様の屋敷に無事にたどり着いた。

 牢屋に入れていた男達は王都に護送する手配が済んだので、衛兵に後を任せている。


 辺境伯様の屋敷の前に、ミナとアカネちゃんが俺とアランを見て大きく手を振っている。

 俺もアランも早足で二人の元に駆け寄った。


「ただいま、ミナ。ちゃんと無事に戻ってきたよ」


「うん、うん、お帰り、ナゾウ!」


 そう言って俺に抱きついてギュウッと抱きしめてくれるミナ。そんなミナを優しく抱きしめ返して俺はアランとアカネちゃんをコッソリと見ていた。


「ちゃんと仕事をすませたよ、アカネ」


「アラン、おかえりなさい。無事に戻ってきてくれて良かった」


 そう言って互いに両手を絡ませている。俺とミナのように抱き合ったりしないのか? と思ったらアカネちゃんの顔がアランに近づいてキスをしていた。

 むう、お帰りのチューか!? やるな、アカネちゃん。ならば俺もミナと! 

 そう思いミナにチューしようとしたら、


「人前じゃダメ」


 と却下されてしまった。落ち込む俺にミナは耳元で、


「よ、夜に頑張るから、今は我慢してね……」


 顔を真っ赤にしてそう言ってくれたんだ。えっと、もう今は夜ですよね。えっ? まだ違うって? おかしいな。俺の目には頭上にヤケに眩しい月が見えるのに。あ、アレは太陽なんですか、そうですか…… 

 俺の脳内ではこんな一人会話が起こっていたのはミナには内緒だ。ミナに対しては俺は爽やかな笑顔(と自分では思ってる)でこう言う。


「分かった。楽しみにしてるよ」


 そんな俺の言葉を聞いて益々顔が赤くなるミナは本当に可愛い。やっぱりもう夜ですよね? あ、違うんですか……


 屋敷に入ったら辺境伯様が俺とアランに言った。


「アラン、ナゾウ殿、お疲れだったな。お陰で助かったよ。取り敢えず晩の食事までは時間があるから、部屋で休んでいてくれ。セダンは俺と一緒に事後処理の手続きを頼む。明後日には王都に向けて出かけよう」


 おお、助かったよ。確かに疲れていた俺は夜にハッスルする為に今からしっかりと休む事にした。が、ミナも部屋についてきて、更にあの侍女頭じじょがしらさんも部屋にやって来た。


 そして部屋に入るなりミナが俺に言ってきた。


「ナゾウ、コチラのハルさんからお話を聞いたの。もう、大丈夫?」


 侍女頭じじょがしらさんはハルさんと言うのか。俺は名前を聞くことも忘れていたなと反省した。そして、ミナに答える前にハルさんに頭を下げた。


「あの時は俺の心が壊れないように、癒やしていただきまして、有り難うございます。俺の中ではもう折り合いがついてます。本当に助かりました、ハルさん。それに、あの時の子供達の言葉にも」


 そんな俺を見てハルさんはニッコリと笑って


「いえ、私は何もしておりません。きっと子供達の笑顔がナゾウさんの強い心を呼び覚ましたんだと思います。でも、そのご様子なら安心しました。本当にもう大丈夫なようですね」


「はい!」


 俺の元気な返事に満足したのか、ハルさんはそれでは私はコレで失礼しますと言って部屋を出ていった。

 そこには頬を膨らませて拗ねてるミナが残っていた。しまった、ついついハルさんへのお礼を優先してしまった。俺は慌ててミナに謝った。


「ゴメンよ、ミナ。でも本当にハルさんにはお世話になったから、会ったら先ずお礼を言わなきゃと思ってたんだ。ミナが心配してくれたのは本当に嬉しいよ。でも、もう大丈夫だからね。有り難う、ハルさんを連れて来てくれて、そして、ゴメン。心配させて」


 俺がそう言うとまだ頬を膨らませているが、


「もう、ナゾウ、ズルい。そんなに言われたら怒れないじゃない」


 と言いながら優しくキスをしてくれた。うん、寝る前に軽い運動をしてもいいですか? いいですよね? ダ、ダメですか…… 


 ミナにダメと言われたので諦めてベッドに横になる俺にミナは衛生をかけてくれた。そして、寝るまでココにいるねと言って手を握ってくれた。俺はそれに安心したのだろう。あっさりと寝てしまったようだ。


 起きたらミナも俺の手を握ったまま、ベッドに上半身をうつ伏せにして寝ていた。うーん、ずっとついててくれたのか。本当にこの妻は世界最高の妻だーっ!! と心の中で叫びながらも、そろそろ夕飯の時間だろうとミナを起こす事にした。


「ミナ、ご飯だよ、起きて」


「うーん、もうちょっと、後五分〜」


 うん、前にも思ったけどミナは寝起きがあまり良くないようだ。


「でも、五分も待ったら俺のお腹がもたないよ」


 そう言ってみたら、ガバッと起きて俺の顔を見て


「ナ、ナゾウだったの、お、お母さんかと思って……」


 と顔を赤くしている。うん、ミナのお母さんはこんなに太い声はしてないよね。ミナのお母さん、ゴメンナサイ。ご挨拶には行けませんが、アナタの娘さんは必ず俺が幸せにしますと心の中で謝り、二人で仲良く食堂に向かった。

 ん? お父さんには無いのかって? うん、ミナのお父さんは以前ミナに見せて貰った写真で、その筋の人も真っ青になるぐらいの強面こわもてだったから、俺の意識からは除外されてます。

 いや、普通のサラリーマンの方だそうですけどね。だって、怖いんだよ。

 夜道であったら速攻土下座して、何でもしますから命だけはって頼むこと間違い無しの強面こわもてなんだから。もしも、転移せずに向こうに居たら、あのお父さんにご挨拶に行かなければならなかった事を思うと、転移して良かったと俺の潜在意識がそう言ってるんだ。 

 あのお父さんに挨拶しなくてソレいいのだけはあの悪逆姫セラムに感謝してもいいと思うぐらいだよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る