第41話 制圧(ぶっ潰し)完了

 ✱前話が少し暗くなってしまいました。




 俺が屋敷の門の方に向かうと、二人の騎士が先に捕まえたゴロツキ達を連れてきていた。ゴロツキ達は俺の顔を見て何かを言おうとしているが、猿ぐつわされているためにムゴーッ、グゴーッとしか聞こえない。


 俺は騎士に聞いてみた。


「辺境伯様はまだですか?」


「ああ、まだ中に居られるようだ。私達二人も今から中に戻るつもりだ。ナゾウ殿は申し訳ないが、子供達を見ていてもらえるか?」


 騎士二人にそう言われて俺は了承した。そして、助けた子供達五名と侍女頭じじょがしらさんを馬車に案内して乗ってもらった。


「ここなら安全だからね。俺は外で悪いやつが来ないように見張ってるから、疲れた子は寝ててもいいよ」


 そう言ってから侍女頭じじょがしらさんに、子供達をお願いしますと言って表に出た。騎士十名も居るし、俺の危険察知にも反応が無いから大丈夫だとは思うが、周りを警戒をしておく。 


 待っていたら屋敷から口髭が似合ってない顔をボコボコに腫らしたかなり恰幅コレステロールのいい男を連れて、辺境伯様、アラン、セダンさんが出てきた。騎士も一緒だ。どうやらあの恰幅コレステロールのいい男がローリーダン子爵のようだ。


「無事に捕縛出来たんですね」


 俺は辺境伯様にそう声をかけた。だが、辺境伯様は騎士達に子爵を渡して、俺にだけ聞こえるようにそっと言った。


「アイツは影武者のようだ、ナゾウ殿。だから一旦ここを出て、後で四人でまた来ようと思う」


 影武者なのか。セダンさんが後で教えてくれたけど、あの影武者ははじめは慌てて逃げようとしたけど、騎士達に追われて反撃してきたそうだ。そして、必死だったんだろう。子爵が使えるはずも無いスキルを使用して、騎士に攻撃を仕掛けたので影武者だと判明したそうだ。

 けれども、気づいた事は隠して影武者を子爵として捕縛してきたらしい。


 この屋敷にはまだ子爵の財産が豊富に残されているので、日が暮れたら子爵が様子を見に戻って来るだろうと思い、辺境伯様は後から四人で来ようと言ったらしい。


 それから、子供達、執事さん、侍女頭じじょがしらさん、侍女を騎士達に護衛させて馬車をメイージに返した辺境伯様。因みに捕縛した者達は辺境伯様権限で、この町にある牢屋に取り敢えず入れてある。

 馬車を見送った俺達は牢屋に向かった。牢屋では子爵の影武者に話を聞く事になっていた。鉄格子ごしらしいけどね。

 俺は遠慮させて貰って宿屋で休ませてもらう事にした。日暮れまで五時間はあるから、自分の心と折り合いをつける為に。


 なんて思ってたけど、気づけばグッスリと寝ていてアランに起こされてしまった。


「ナゾウ、良く寝ている所に悪いんだが、日が暮れたから起きてくれないか?」


 そう言って俺の肩を揺さぶり起こしてくれたアランを見て、つい


「うん、アランはアカネちゃんといい夫婦になるな」


 と口走ってしまった。アランの顔が赤くなり、


「いきなり何を言ってるんだ、ナゾウ」


 と頭をはたかれてしまった。いや、起こし方が優しいから、恐らくアカネちゃんを起こす時もこんな風に起こすんだろうなぁとボンヤリと考えてしまったんだ。

 

 俺も起きて顔を洗ってシャンとしたのを確認して、辺境伯様が俺達に言った。


「今から乗り込むが、なるべく物音をたてたくないから、ここから俺のスキルをみんなにかけさせてもらう。隠密というスキルで、かけた者の気配や足音を限りなく無くす。が、あくまで限りなくだから、慎重に行動してくれよ」


 俺達はハイと返事をして、スキルをかけてもらった。そして、子爵邸に着いたら、人が居ない筈の屋敷から気にしてないと分からない程の細い灯りが見えた。

 どうやら戻ってるようだ。俺も今回は雷山槍を手に持ち、殿しんがりを慎重に進む。

 細い灯りが漏れていた場所は子爵の執務室の隣の部屋らしい。先頭に辺境伯様、次にセダンさん、アラン、俺の順番で屋敷の中に入り進んでいく。辺境伯様は夜目が効くらしく、腰部分に夜光性の小さな玉を付けてくれているので、俺達はそれを見ながら後をついて行った。

 部屋の前で立ち止まり、耳をすませた辺境伯様は静かに扉を開けて中に入る。

 俺達もそのまま続いて入ると、部屋にある棚が移動していて奥から灯りが漏れていた。この灯りがカーテンごしに窓に反射していたようだ。

 奥からはガサゴソと大きな音がしている。セダンさんが指を一本たてて、中にいるのは一人だと教えてくれた。


 辺境伯様はそのまま奥へと進み、開きかけだった扉を大きく開けて言った。


「ローリーダン子爵、こんな所に財産を隠していたとはな」


 辺境伯様の声で中の人物がビクッとしたのが分かった。その人物は影武者そっくりで、いや、違うか、コッチが本人か。


「なっ! ラ、ライダール辺境伯! ななな、何故、ここに!?」


「何故って、それはお前の影武者がヘマをしたからだよ。お前が使える筈のないスキルをぶっ放すから、俺達はアレが影武者だと気がついたんだ。まあ、どこか隠し部屋からでも見ていたんだろう? どうだった、俺達の演技は?」


「グ、グヌヌヌッ、まさか気づいていたとは…… エエイ、こうなればコレでも食らえ!!」


 そう言ってローリーダン子爵は何かを辺境伯様に投げつけたが、辺境伯様は難なくそれを子爵に打ち返した。そして、ソレが当たった子爵は苦しみだし、ぶっ倒れてしまった。


「毒使いのローリーダン。自分の毒で死んだか。馬鹿なヤツだな。日頃から自分のスキルを自慢気に喋りまくるから、そんな事になるんだよ」


 どうやら皮膚から体内に入る毒らしく、辺境伯様は打ち返した剣の鞘を部屋の中にあった紙で丁寧に拭っていた。


「さてと、死んでしまったがそのまま王都に送る必要があるな。セダン、頼めるか?」


「はい、では死体を凍らせて収納します」


 うん、俺の出番が無かったけど内心ではホッとしていた。出来れば暫くは対人戦闘はしたくないからね。


 そうして、完全に制圧を終えた俺達は、宿屋に戻り翌朝、カルマンに向けて出発した。

 ああ、早くミナに会いたいな。 

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