第40話 始末屋との戦闘

 その男は子供達を盾にしたりせずに、


「ここじゃあ狭いな。俺は切り刻むのが好きなんだ。外に出るか」


 そう俺に言ってきたんだ。俺としても都合が良かったから、それに乗ることにした。


「分かった、出よう」


 俺はその男を見つめたまま後ろ向きに下がり、部屋を出て、離れ屋からも出た。男も俺から一定の距離をとりながら進んできて、離れ屋から出てきた。


「お前、自信がありそうだなぁ」


 出た途端に俺にそう声をかけてくる男だが、俺は答えることなく木の棒を構えた。勿論、技能も発動してある。


「フン、ダンマリか…… いいのかぁ、今から死ぬのに黙ったままで。死んだら好きな女にも会えなくなるんだぜぇ。ま、もっともお前みたいな奴が女に縁があるとは思えないがなぁ。ヒヒヒ」


 む、コイツ、自分の事を棚に上げてこんな事を言ってきたな。よーし、精神的ダメージを与えてやるか。


「ご心配なく、既に妻がいるんでね」


 俺はワザと淡々と男に言ってやった。そしたら男はワナワナと体を震わせている。よし、精神的ダメージを与えたぞ。


「なーんで、お前みたいなのに女が居て、俺に居ねぇんだよっ!! クソッ、こうなったらお前の股間を切り取って切り刻むっ!!」


 おい、それは逆恨みだろう。俺はそう思ったけれど何も反論出来なかった。


 何故なら男はそう言って懐に飛び込んできたからだ。俺は慌てて棒で男の短剣を受け止め、受け流す。が、体勢を崩すどころかそのまま流れに逆らわずに自分の体を流しながら、下手から短剣を振ってきた斬撃に俺は反応出来ずに左脇腹を浅く切られた。


「ヒヒヒ、コレだよ、コレ。こうやって俺の相棒に少しずつ血を吸わせてやるのが俺の喜びなんだよ。ヒヒヒ」


 クソ、まさかあの体勢から剣を振って来れるなんて。油断した。木の棒じゃなくて雷山槍にしておけば良かった。それなら最初の攻撃の時に受け流しながら足元にも柄が届いて更に体勢を崩す事が出来たのに。俺はそう思ったけど、今さら遅い。

 男は更に攻めてきた。


 右、左、右、右、左とフェイントを織り交ぜて短剣を振って来る男の攻撃を何とか受け止めている俺。だが、剛性をしようしている俺の木の棒が、男の短剣によって半分に切られた。


「ヒヒヒ、ヒャーハッハッ、さあて中々固い棒だったが、所詮只の木の棒だったなぁ。俺の相棒は刃こぼれ一つしてない。お前の得物は短くなった。益々楽しくなってきたなぁ」


 どうする、俺。技量は男の方が上だ。しかもあの短剣も特殊らしく、俺の剛性でかなりの性能になっていた木の棒を切られてしまった。俺がいま無事でいられるのは、恐らくレベルがこの男よりも上だからだろう。だが、このままだと確実に致命的な場所を切られてしまう。

 俺はこんな所で死にたくはないし、何か良い手はないか……


 内心で焦りまくっている俺は何とか両手に持った短くなった木の棒を使い、男の斬撃を防いでいた。男は俺がジリ貧なのに気がついているのだろう。


「ヒャーハッハッ、もう諦めなぁ! オラッ、オラッ、手足を切ってから股間を切り取ってやるからよーっ!! ヒャーハッハッ!!」


 冗談じゃない。やっと卒業して、入学したトコなんだ。コレから新たにミナと二人で勉強していくんだから切り取られてたまるか。

 俺は心の奥底からそう思い、何とか粘っていた。その内に男の攻撃パターンが見えてきた。これなら、肉を切らせて骨を断つが出来そうだな。けど、痛いだろうなぁ…… でも、このままだとミナと同じ学び舎に行けない。ヨシ、覚悟を決めるか。


(卒業して入学とか、学び舎とかは夜に二人きりで行うとある学習を指しております)


「ヒヒヒ、どうやら諦めたようだなぁ」


 男は俺が両手をだらりと下げたのを見てそう考えたようだ。


「ヒヒヒ、でもなぁ。俺は切り刻むのが好きなんだよ。だから一撃でトドメなんか刺さないぞ。先ずはその邪魔な足から切ってやるよぉーーっ!」 


 そう言って男は俺の左の太腿に短剣を突き刺した。痛ぇーー。けど俺は我慢して筋肉を収縮させて、短剣が抜けないようにする。そして、無防備な男の頭を思いっ切り叩いた。

 俺は命の危険に際して俺自身の力を忘れていた…… 木の棒が当たった男の頭は櫨割はぜわれ、血と何かを噴き出しながら男は倒れる。


「アッ? 何で俺は倒れ、て、……」


 それが男の最後の言葉になった。俺は足に刺さった剣も気にせずにガタガタ震えていた。


 こ、殺してしまった。は、初めて人を殺してしまった…… 俺の頭の中ではその考えがグルグルと回る。

 も、もうミナに会えない…… 俺は人殺しだ……


 何分もそうしてジッとしていただろうか。俺は離れ屋から出てきた侍女頭じじょがしらさんにも気がついてなかった。俺を見た侍女頭じじょがしらさんは、俺の状態を正確に見てとったのだろう。

 スタスタと歩いてきて、男の死体を俺の目線から外し、おもむろに俺の足に刺さった短剣を抜いた。俺はその痛みで覚醒する。


「ガッ! 痛ぇ!」


「大丈夫ですよ、少しだけ我慢して下さいね」


 優しくそう俺に言った侍女頭じじょがしらさんは、スキルを使い俺をキレイにしてくれ、更に傷も治療してくれた。そして、静かに俺を抱きしめてくれ、


「あなたのお陰で子供達も私も助かりました。有り難うございます。この男は子爵の切り札で、今までに何人もの人を、子爵の命令で切り刻んで殺してきた男なんです。だから初めてなのでしょうが、気に病む事はありません。この男が生きていたなら、子供達も私も切り刻まれて、今頃川に流されていたでしょう。あなたは私達を助けてくれたのです……」


 そう言いながら俺の背中を撫でてくれた。俺は気がついてなかったが、覚醒したものの全身が震えていたらしい。だけど、侍女頭じじょがしらさんの言葉と、優しく背中を撫でてくれる手によって、震えがかなり治まっていた。

 そして、子供達も離れ屋から出てきて、


「お兄ちゃん、悪い人をやっつけてくれて有り難う」

「お兄ちゃん、助けてくれて有り難う」


 そう口々に礼を言ってくれた事により、俺の心の中の人を殺したという罪悪感が、薄れていった。俺は侍女頭じじょがしらさんに照れて、お礼を言った。


「も、もう大丈夫です。有り難うございました。さあ、早く子供達を安全な場所に連れて行きましょう」


 俺はそう言いながら子供達の方を見て、


「さあ、安全な場所に行くよ。ちゃんと、ついてきて」


 と言って、子供達の返事を確認してから門を守っている十名の騎士の元に向かった。 

 次からは慢心せずにちゃんと手持ちの武器を持って戦う事を心に刻みながら俺は歩いていた。


 

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