第39話 子爵邸

 辺境伯様にセダンさん、アラン、俺と辺境伯様の指揮する騎士が二十名。ユリアさんはミナとアカネちゃんと一緒に残ってもらった。あの三人が居るなら滅多な事では引けを取らない筈だ。

 俺達四人は馬車で、騎士達は馬で隣町に向かっていた。馬車の中で辺境伯様が言う。


「さて、今からローリーダン子爵をぶっ潰す訳だが、俺達が犯罪者にならないように、王都にも既に知らせを出した。そして、国王の許可も得てある。だから真正面から乗り込んで、罪状を述べて反抗するようなら徹底的に潰す事にした。素直に罪を認めたなら、王都に連行して裁判になるが、ローリーダン子爵のことだから素直に認める事は無いとココに断言しておく。もしも素直に認めた場合は影武者だと考えられるから、アランはよーく見て判断してくれ」


「はい、兄様あにさま


 おおー、影武者か。やっぱりコッチの世界でもそういう人がいるんだな。しかし緊張するな。対人戦は俺も初めてだし。そうだ、俺は木の棒を使おう。それなら、よっぽどじゃない限り相手が死ぬ事はないだろう。

 けれども、その俺の考えがこの後にピンチを迎える事になった。


 子爵邸に着いた俺達を見て門番が抵抗していたけれども、強引に入る。騎士達のうち、十名がついてきて、十名が門を固めた。門番二名は拘束済みだ。


 玄関で扉のノッカーを叩く辺境伯様。三秒後に扉が開き、いかにも執事ですというスタイルのお爺さんが顔を出した。


「これはライダール辺境伯様。突然のご訪問ですが、何用でございましょうか?」


 問われた辺境伯様は懐から書状を取り出してそのお爺さんに示して言う。


「ローリーダン子爵を拘束して王都へと連行する。罪状はこの書状に書かれている通りだ。コレは国王陛下のご命令だ。逆らうならば制圧するが、大人しく従うのであれば武力行使は行わない」


 お爺さんは書状を見て、辺境伯様を見て言った。


「おお、やっと…… 辺境伯様、我らこの屋敷の下僕は大人しく従いまする。ローリーダン子爵の元にご案内いたします。どうぞ中にお入り下さい」


 うん、今やっとって言ったな。つまり、このお爺さんも子爵のやっていたを知っているんだな。俺達は警戒しながらも屋敷の中に入った。

 屋敷内には人気が少ない。それをいぶかしく思った辺境伯様が問いただす。


「やけに使用人が少ないようだが?」


 問われてお爺さんが答えた。


「この一年の間に主だった者達は辞めてしまいました。私と侍女頭じじょがしらと数名の侍女しかもはやおりませぬ。子爵はどこかから幼い少女を連れてきて、なぐさみものにしております。それを知った者達は次々に辞めていったのです。私も先代様の恩義に応える為に覚悟を決めておいさめしましたが、聞いていただけませんでした。私と侍女頭が出来たのは、毎夜子爵様に大量に酒を飲ませて、少女達に欲望を吐き出す前に酔い潰すぐらいしか出来ませんでした。それすらもそろそろ限界でしたので、どうしようかと頭を悩ませていたのでございます」


 うん、この子爵は拘束する必要なんてない。ぶっ潰す。俺はそう思いながらもお爺さんに聞いた。


「今、この屋敷にそうやって連れて来られた娘は何人で、何処に居ますか?」


「はい、あ、ちょうど侍女頭じじょがしらがあそこに居りますので、案内させますがどういたしましょう?」


 俺はそれを聞いて辺境伯様に言った。


「最後の悪あがきで子供達を人質や道連れにする可能性もあるかも知れないので、俺は子供達を保護しに行きます」


 辺境伯様はそれを聞いて騎士二名に俺に同行するように言ってから、


「ナゾウ殿、よろしく頼む」


 俺にそう言い許可してくれた。俺は騎士二名と共に侍女頭じじょがしらさんの元に行き、


「子供達の元に案内してください」


 と頼んだ。侍女頭じじょがしらの女性は年の頃は三十代前半だろうと思う、優しい目をした人だが、その顔を少し曇らせて俺に言った。


「ご案内いたしますが、実は見張りが五名おります。子供達を住まわせている離れ屋の入り口に二名、中に三名おりまして、彼らをどうにかしないと子供達を助け出すのは難しいかと……」


 なるほど、逃げ出さないように見張りがいるのか。しかも良く聞けば子爵が雇った町にいるマフィアの下っ端らしい。年齢も俺ぐらいのが二人、中にいる三人でも二十歳ぐらいだと言う。

 そこで先ずは侍女頭じじょがしらさんと俺の二人だけで行き、騎士二名は近くで待機してもらう事にした。俺は防具を外して庶民服になり、木の棒を手にして離れ屋に向かった。


 離れ屋の入り口に立つ見張りは確かに俺ぐらいの年齢だ。二人は侍女頭じじょがしらさんと一緒に来る俺をいぶかしげに見ている。


「ご苦労様です。子爵様よりご命令がありました。隣町カルマンを治める辺境伯様が子爵様を捕えようとこの屋敷にやって来ました。子爵様は逃げ出しております。逃げる際に、証拠となる子供達を処分しておけとこの者に言って逃げ出しました。中の子供達をこの者に渡して、あなた方も早く逃げて下さい」


 侍女頭じじょがしらさんの言葉に慌てる二人。


「なっ、それはマズイ!」

「俺は中の兄貴達に知らせてくる!」


 一人が中に入ったのを見届けて、俺は残った一人を殴って気絶させた。待機していた騎士が気絶した見張りを連れて隠れる。


 そこに四人の男が出てきた。


「カルマンの辺境伯が来たというのは本当か!」


「おい、ザインの奴は何処に行った?」


「辺境伯様が来られたのは本当です。コチラに残っていた見張りの方は、俺は先に逃げると言って居なくなりました」


 スラスラと言う侍女頭じじょがしらさんの言葉をあっさりと信じた男達は、


「クソッ、ザインの野郎、先に逃げ出しやがって! 見つけたら只じゃおかねぇ!」   


 そう言いながら逃げ出そうとした。俺はその隙に離れ屋の入り口に立ち、男達が中に入れないようにした。侍女頭じじょがしらさんには先に中に入って貰った。

 逃げ出した男達の前に騎士二名が立ち塞がる。


「うわっ! 兄貴やべぇ! もう来やがった!」


 騎士を見た見張りが叫ぶ。兄貴分が俺を見て言う。


「おい、お前も子供を処分したら逃げる必要があるんだろ? ここは俺達と協力してあの騎士を倒そうぜ」


 俺はそれに返事をした。


「ああ、分かった」


 返事と共に兄貴分の頭を殴り、気絶させる。


「あ、この野郎! 何しやがる!」


 叫んで三人が俺に向かってきたが、騎士二名があっさりと三人を拘束した。俺はその場を騎士に任せて離れ屋に入った。


 そこには……


 気絶した侍女頭じじょがしらさんと、見知らぬ男が立っていた。


「フン、イヌの手の者か? 子供を助けに来たか。だが、今から俺が証拠を消す為に子供を処分する。ついでにお前もな〜」


 男は手にした短剣の刃を舌でべろりと舐めながら俺にそう言ってきた。


 うわ、漫画やアニメで見た事あるけど、本当にこんな奴が居るんだ!!

 こんな時でも俺の思考はピントが外れていた……


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