第38話 隣町の子爵

 辺境伯様の屋敷にシスターと子供達を連れて戻ると、子供達がその屋敷の大きさに驚いていた。


「セ、セダン兄ちゃん、俺達が入っても大丈夫なの?」


 子供達のリーダー的な男の子、ラウル君がセダンさんに聞いている。


「ラウル、大丈夫だよ。僕やユリアが一緒なんだから安心しなさい」


 セダンさんはそう言ってみんなを連れて敷地内に入っていく。俺とミナは最後尾で屋敷に着くまで警戒していたけど、尾行もなかったので安心して中に入った。屋敷の玄関前には何故かクーガ君とアメリアちゃんが待っていた。そして、俺達を見てクーガ君が大声を出した。


「ラウルー、良かった、無事だったんだね!」


「あ、クーガ、うんセダン兄ちゃん達に助けてもらったんだ!」


 おおう、知り合いだったのか。それもかなり親密な感じだな。そこでラウル君がアメリアちゃんを見て言った。


「クーガ、この子は? 見たことないキレイな子だけど、クーガの恋人かぁ?」


 そう聞かれてクーガ君とアメリアちゃんの顔がトマトになっている。


「ちっ、違うよ、ラウル! アメリアちゃんはお友達だよ!」


 あ、力一杯否定しちゃったよ。クーガ君、そこは笑って誤魔化す場面なんだよなぁ。ほら、案の定アメリアちゃんの機嫌が悪くなったよ。


「そうか、お友達かぁ。俺とも友達になってくれる? 俺はラウルって言うんだ、よろしくね」


 ほら、ラウル君のアタックが始まったよ、クーガ君、どうする?

 何て俺がニコニコニヤニヤしながら見物していたら、ミナに小突かれてしまった。


「ナゾウ、ニヤニヤしないの!」


 俺はニコニコと大人の笑みを浮かべていたつもりだったけど、どうやらニヤニヤになっていたらしい。直ぐに表情を引き締めてはい、ごめんなさいと謝った。


 玄関先での攻防も終わり中に入る俺達。辺境伯様がセダンさんとユリアさん、シスターを連れて執務室に向かった。

 俺達はアランとアカネちゃんに先程あった事を伝えた。


「そうか、大変だったな。ナゾウ」


「いや、アラン。俺達よりも、子供達を無事に助け出せて良かったよ」


 俺がそう言うとうんうんと頷くミナとアカネちゃん。


「しかし、隣町の子爵か…… まいったな」


 アランがポツリとそう呟いた。


「ん? 何か不都合でもあるのか?」


 俺は不思議に思いそう聞いた。アランの返答は、


「ああ、ナゾウ。今、隣町で子爵をしているのは姉上セラムの叔父に当たるヤツでな。下手に手を出すと姉上セラムがこの国に攻め込む理由を与える事になるかも知れないんだ……」


 と驚くべきものだった。


「ええっ! でもアランくん、放っておく事はダメだよ。今回は子供達を助けられたけれど、第二、第三の、ううん、今まさに助けを待っている子供も居るかもしれないし!」


 ミナがそう言うとアランも頷いて言う。


「それは勿論です、師匠。俺も放っておくつもりはありません。ただ、どうすればこの国に迷惑がかからないかを考えないといけないと思いまして」


「アラン、それは辺境伯様と相談して決めるべきだと思うわ。私達やアランで勝手に決めて動いたら、更にこの国に迷惑をかけるかも知れないから」


 アカネちゃんがアランに冷静な判断をするように促す。


「あ、ああ。それもそうだね。アカネの言うとおりだ、有り難う。焦りばかりが募っていたけど、少し冷静になったよ」 


 俺達四人でそう話をしていたら、辺境伯様とセダン夫婦が部屋にやって来た。

 衛兵が連れてきた男達の尋問も終え、詳細を教えてくれた。男達はそのまま牢獄に連れて行かれ、ある処置を施された後に、奴隷としてある場所に連れて行かれるらしい。そこの所は詳しくは俺達も聞かない事にした。


「それで、ですな。アラン様」


「それなんだが、アギト殿。私はもう王族として生きる事は放棄したのだ。なので、立場的にはアギト殿の方が上になる。昔、アイリーン姉様あねさまと婚約した時に呼んでくれたように、呼び捨てで呼んで貰いたいんです。私も口調を当時のように改めますから、そうして貰えますか? アギト兄様あにさま


 アランからそう言われてニヤリと笑った辺境伯様は、態度もざっくばらんに変えて言った。


「ハッハッハッ、分かったよ、アラン。そうしよう。それで今後の対応についてなんだが」


「はい、兄様あにさま。どうしますか?」


 そう聞くアランにまたまたニヤリと笑い、渋く言ってのける辺境伯様。


「決まってるだろう! ぶっ潰す!!」


 そう聞いて俺は思わず言ってしまった。


「でも、大丈夫なんですか? 向こうの悪逆姫セラムに攻める口実を与える事になりませんか?」


 俺の疑問に笑いながら答える辺境伯様。


「ハッハッハッ、ナゾウ殿。それは大丈夫だ。そもそも、あのローリーダン子爵とセラム王女は仲が悪いからな。ぶっ潰してやったら逆に礼状が届くかも知れん」


 はえ? そうなんだ。あ、でも口実だからなあ。普段は仲が悪くても、攻める理由が出来たらよくも私の大切な叔父上をとか言いそうだけどなあ。

 俺と同じ事をアランも考えているのだろう。だが、口を開きかけたアランを手で制して辺境伯様は言葉を続けた。


「心配するな、アラン。もしも攻めてきたとしても、我が国がカイール王国に敗れる事はない。例え異世界からの勇者達がいようともな」


 自信たっぷりにそう言う辺境伯様に俺は男だが見とれてしまった。あの変態さんと同じ人だとはとても信じられない。


「という訳で、今からぶっ潰しに行くから付き合え、アラン」


「はい! 兄様あにさま!!」


「俺達も行きますよ」


 俺の言葉に辺境伯様は、


「ナゾウ殿、有り難う。よろしく頼む。だが、二人程はココに残って守りを固めて貰いたいのだが」


 そう言ってきた。俺はミナとアカネちゃんを見て、


「ミナ、アカネちゃん、アイリーン様やクーガ君、アメリアちゃん、子供達を守る為に残ってくれるかな?」


 そう聞いた。二人とも素直に


「うん、任せて」


 と言ってくれたので、俺達は隣町の子爵邸にむけて出発した。




 


 


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