第35話 辺境伯様はエム

 辺境伯様の屋敷に連行された俺達。取り敢えず護衛である俺とミナは辺境伯様に会う必要はないだろうと言ったのだが、却下されてしまった。

 セダンさん曰く、人数が多いほど被害が少ないそうだ。被害って何だ?


 そこに、クーガくんを連れた、クーガくんと同じ獣耳ケモミミを持つイケメン獣人さんと、俺達と同じヒト種のキレイな女性が俺達の待つ部屋に入ってきた。

 そして、イケメンさんはアランの目の前でジャンピング土下座を決めた。


「アラン様! この度は息子の危機をお救い下さりまして、誠に有難うございます! 今回は私の判断ミスにより、息子や騎士達をも危険にさらしてしまい、汗顔かんがんの至りでございます! お礼とお詫びとして、この辺境都市にいる間はどうか我が屋敷にてお寛ぎ下さいますよう、ひらにお願い申し上げますーー!!」


 そこにキレイな女性がやって来て、イケメン獣人さんこと、ライダール辺境伯様の頭を片足で踏み踏みしながら、アランに挨拶をした。


「アラン様、ご無沙汰しております。まあ、何ともご立派になられて。これなら浄土で我が姉も安心して笑って見ておりますわね。それに、今回はこの辺境伯バカの大きな間違いで危うく生命を落とす所だった我が子をお救い頂きまして、本当に有難うございます。この辺境伯バカの言うとおり、都市に居られます間は是非とも屋敷にてお過ごし下さいませ」


 俺はコソッと踏み踏みされてる辺境伯様の横顔を見たが、何故か恍惚としてる様に見えた。まさか、エ、エムの方ですか。

 俺は関わるのは止めようと心に固く誓った。


「アイリーン叔母上、いや姉様あねさま!」


 おお、アランが叔母上って言った時に周りの空気が一気に冷え込んだけど、アイリーンさんの殺気か? 慌ててアランも言い直したしな。


「たまたま、今日コチラに向かっていて良かったと思います。クーガ殿の危機に間に合い、助けることが出来たのはコチラにいる私とアメリアを護衛してくれた冒険者達のお陰です。それと、姉様あねさまにご報告があります。コチラのアカネ殿と私は正式に婚約致しました。どうか、今後ともよろしくお願いします」


「アカネと申します。アラン様の婚約者として恥じないように精一杯お支えします。よろしくお願い申し上げます」 


 おお、アカネちゃんが頼もしい。とても同い年とは思えないな。


「アラまあ! 婚約者までなんて! それにこんな素敵な女性を捕まえるなんて、益々アランは立派になったわね! アラ、ゴメンナサイね。つい、昔のクセで」


「いえ、姉様あねさま。昔のままで呼んで下さい。その方が私も落ち着きます。さあ、アメリアもご挨拶して」


「アイリーン大姉様! ずっと会えなくて寂しかったです。会えて良かった!!」


 そう言ってアメリアちゃんが抱きつくと、


「まあまあ、アメリアも大きくなって。本当にゴメンナサイね。早く会いに行きたいとは思ってたんだけど、向こうからは来るな、ダメだって返事ばかりで…… でも本当に二人とも無事で良かったわ」


 半ば泣きながらアメリアちゃんを優しく抱いて、そう言った。それから、セダンさんとユリアさんの方を見て、


「セダンもユリアも有難う。二人を守ってくれて」


 そう言い、無言で頭を下げた二人をみて頷いた後に、俺とミナを見て言った。


「高級冒険者(黒金)様の護衛だなんて、こんなにも頼もしく有り難い事はございません。この度はこの子達だけでなく、我が子までお救い頂き有難うございます。緊急依頼扱いとして、冒険者ギルドに後依頼ごいらいとして出しましたので、コチラの用紙を持ってギルドに行けば報酬が支払われます。こんな事でしかお礼が出来ませんが。それと、この子達と同じくこの都市に居られます間は、我が屋敷にてお過ごし下さいませ。もう一つ、無理を承知で一つ依頼をお願いしたいのですが……」


 そう言って言いよどむアイリーンさんに、ミナが


「無茶な依頼でなければお受けしますよ」


 と内容を言うように促した。


「滞在されている間に我が子を鍛えて頂けますでしょうか? それと、そちらの神獣様が宜しければ、ご一緒に……」


 何と、マロ状態の神獣様マナガルムの正体を見破るなんて、凄いな。マロは神獣状態に戻り、話した。


『良かろう。我と同じ同胞はらからからの頼み、しかと聞いたぞ。お主の子を鍛えてやろう』


 言うだけ言ってマロ状態に戻った。おお、と言うことは狼獣人なんだな。犬獣人と迷ったから言わなくて良かったよ。でもアイリーンさんはヒト種だよな? マロはアイリーンさんに向けて同胞はらからって言ったけど、どうなんだろ? まあ、後で聞いてみよう。

 マロが受けてしまったから、俺達も了承した事になるのかな? まあ、クーガくんは可愛いし、アメリアちゃんの為にも強くなってもらいたいからいいか。俺はそう思い、アイリーンさんに頷いて了承しておいた。

 そして、踏み踏みから立ち直った辺境伯様が、


「おお、それならばついでに我が騎士団と私にも稽古をつけて頂きたい! よろしくお願い致します!」

 

 と勢い込んで言い、アイリーンさんに叩かれている。叩かれながら恍惚としている辺境伯様…… 一応それも了承しておいた。それから、みんなが食堂に案内されて、ご飯を食べてから各部屋に案内されて休む事になった。今回はアランはアメリアちゃんと別れてアカネちゃんと同室になったようだ。アメリアちゃんはアイリーンさんと同じ部屋で寝るそうだ。マロもそちらに行くという。

 ミナに報告に来たアカネちゃんの言葉が俺にも聞こえた。


「私、今日は頑張るからね、ミナちゃん。ミナちゃんも頑張ってね!! アイリーン様が避妊魔法を……」


 後の言葉は良く聞き取れなかったが、部屋にあるお風呂に入った後にミナが積極的になった事で察して欲しい。俺はミナと二人で遂に卒業したのだ。(何をかは敢えて言うまい)


 そして翌朝には、ぎこちないながらも幸せそうな俺とミナ、そしてアランとアカネちゃんを見てアイリーンさんが、ミナとアカネちゃんを別室に連れて行ったとだけココに報告しておこう。 


 そのまま、俺とアランは辺境伯様に捕まり、根掘り葉掘り質問されたが、何でそんな事を聞きたいんだと言う質問ばかりだった……

 うん、この人は俺が妄想する事を口に出して言える変態さんだと認識したよ。


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