第33話 いよいよ旅立ち

 セダンさんとユリアさんが村に戻ってきたのはそれからニ日後の朝だった。二人ともかなり疲れていて、帰ってくるなりベッドに入って寝てしまった。

 俺は寝てる二人に新たに豪健をかけた。どうやら俺と離れすぎると効果が切れるようだ。コレは新たな発見だな。今度、どれ位離れたら効果が切れるのか調べておかないとダメだな。


 俺が豪健をかけたら疲労で寝苦しそうにしていた二人の呼吸が落ち着いて、寝息も安らかになった。起きるまでソッとしておこうと言う事になり、俺達は朝はこの世界の事をアランやアメリアちゃんに教わり、昼からはマロを交えて戦闘訓練をしていた。


 二人は夕飯前に目を覚したよ。二人とも朝の疲労はすっかり癒えて元気だった。夕飯もモリモリ食べてたしね。そして、


「アラン様、アメリア様、僕達二人は僕がレベル45に、ユリアがレベル41になりました。これで何時でも隣国に向けて旅立てます。いかが致しますか?」


 セダンさんが夕飯を終えてそうアランとアメリアちゃんに聞いた。


「うん、それならば明日の朝にこの村を出ようか。先ずは隣国の辺境都市カルマンを目指そう」


「はい、畏まりました。既に護衛依頼はギルドに出しており、ナゾウくん、ミナさん、アカネさんにも依頼を受けて貰っておりますので、後は馬車の手配だけです」


 セダンさんがそこまで言った時にアメリアちゃんが言葉を挟んだ。


「馬車の手配は必要ないわ、セダン。ミナさんが馬車を作って下さったの。引く馬はミナさんが型を作って私が核石を利用してゴーレムにしたから、それで行く事にしたわ。馬車は私とお兄様、アカネお姉様とセダンとユリアが中で、馭者席にナゾウさんとミナさんについて貰うから」


 そう、二人の居ない二日間でミナの収納職人に仕事をしてもらい、馬車を作って貰ったのだ。更に、ゴーレムにする為の馬の形をした型を作り、それにアメリアちゃんが核石を利用して生命を吹き込んだのだ。コレはマロに教えてもらったのだが、核石の魔力が切れない様に注意すれば、ゴーレムが一番頑丈で安全なのだとか。ヒト種の国では余り一般的ではないけど、これから向かう隣国では普通に走ってるそうなので、目立つ事もないらしい。


 それから、俺達は明日の朝早くに出発するので、みんな早めに就寝した。寝る間際にミナが


「何だかワクワクするね、ナゾウ」


 そう言って俺に抱きついて寝た。俺とミナは正式に結婚した。お互いに十八歳になった日に俺はミナにプロポーズして、ミナが受けてくれたんだ。

 その日にアカネちゃんが


「私に遠慮する事なくいつも通りに過ごしてね」


 と言った途端にミナは同じベッドで寝るようになった。勿論、成長しまくった俺の理性はちゃんと仕事をしているのだが。他人がいるのに事に及んだりするほど俺は変態ではないのだ。

 何かを期待して遅くまで起きていたアカネちゃんがいたが。


 翌朝、俺達は村の外に出た。村長さんや門番長さん、ギルド長のロマーノさん以外にも多くの村人が見送りに来てくれていた。みんなが口々に俺達にお礼を言うが、この村で俺達も自由に過ごさせて貰ったので、お互い様だろうと思う。


 そして、またいつかここを訪ねることを約束して、俺達は隣国の入り口である辺境都市カルマンに向けて出発した。


 ミナが収納職人に頼んで作った馬車は中が広くなっている。コレもマロに教わりながらアメリアちゃんが魔術鞄の応用で、内部空間を広げたからだ。そして、その空間を広げた馬車をミナがもう一度収納して、職人に頼んで風呂、トイレを二つずつ設置した上に、俺とミナ、アカネちゃん用の部屋、セダンさん、ユリアさん夫婦用の部屋、アランとアメリアちゃんの部屋を作ってある。居間も作ってあり、今は五人は居間で寛いでいる。


 うーん、考えたら凄い馬車なんじゃないだろうか。セダンさんは国宝物だって言ってたし。俺は隣に座るミナに話しかけた。


「なあ、ミナ。もしも定住地が決まったら何かしたい仕事ってある?」


 俺の問いかけにミナは少し考えてから言った。


「えっとね。修理屋さんとかどうかなって思ってるの。壊れた家具や破れた服なんかを預って直すのってこの世界だと需要があるかなって思ってるんだけど。家具は収納職人に任せて、服は私が補助技能を使って直したらいいかなって思ってるんだけど、ナゾウは? 何かしたい事がある?」


 俺はミナの考えにすっかり感動してしまっていたので、逆に問われて漠然としか考えて無かった自分を恥じた。けど、ミナに嘘はつけないから正直に話した。


「うん、聞いておいてなんだけど、俺はまだしっかりとは考えて無かったんだ。ただ、技能に豪農があるから農家も良いかな、なんて思ってたんだけどね。ミナみたいに真面目には考えてなかったよ、ゴメン」


「ううん、当たり前だよ。ナゾウ。そんなに直ぐには決められないし、定住地も決まってないうちからちゃんと考えるなんて難しいと思う。私だって今いった事は思い付きみたいなものだもん」


 はい、久しぶりに【もん】をいただきました。コレは嬉しい不意打ちだ。俺はミナの顔を穴が開くほどに見詰めてしまった。 


「な、何!? ひょっとして私の顔に何か付いてる?」


 少し顔を赤らめてそう言うミナに俺は無意識に言ってしまった。


「いや、俺の奥さんは世界一可愛いなと思って」


「!! っもう、いきなりそんな事言ったらダメたよ〜」


 ミナは俺の肩をパシパシ叩きながら照れている。そこに俺の危険察知に反応が出た。距離はまだ五百メートル以上先だけど、俺は馬車を停めてミナと中にいるみんなに聞こえるように声を出した。


「前方凡そ六百メートル先にモンスターと争う気配があるよ。人が多分十人ぐらいかな? モンスターは三十体はいるみたいだけど、どうする?」


 護衛のリーダーはセダンさんだけど、雇い主はアランだから、アランの決定に従う事になる。中からアランが言った。


「ナゾウ、その争っている人達は大丈夫かどうかなんて分かるのか?」

 

「今の所は何とかモンスターを防いでる感じかな。でも長くはもたないかも知れないな」


「分かった。それじゃ、手助け出来るように速度を上げて近づいてくれ」


 雇い主がそう言うなら仕方ない。俺はゴーレムに指示を出して速度を上げて争いの場に近づいて行った。

 

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