第32話 隣国について教えて貰った

 楽しく過ごした翌朝である。昨日の失敗に懲りたのか、礼儀正しいノックが響いた。

 そして、返事を確認してから扉を開けたのはアメリアちゃんだった。アランはその後ろに立っていたが。


「おはようございます。お姉様にミナさん、ナゾウさん。今日は少し隣国についてのお話をしに参りました」


 そう言って部屋に入ってくるアメリアちゃんにマロ。その後ろからオズオズといった感じでアランも入ってきた。


 俺達は部屋の中の机と椅子に座り、運ばれてきた朝食を食べ終えてから話を聞く事にした。

 朝食を持って来てくれたクレアさんは、昨日は楽しく、美味しい時間を有難うございましたと俺達に言って頭を下げて出ていった。うん、喜んでもらえたようで良かった。


 それから、朝食を食べ終えて俺は疑問をアメリアちゃんに聞いてみた。


「マウント取りのセダンさんは今日は居ないのかな?」


 俺の聞き方が可笑しかったのだろう。クスッと笑ってからアメリアちゃんが教えてくれた。


「セダンとユリアは今日からレベル上げに勤しむと言って朝早くから出ていってます。レベル35になったら戻ってくるそうです」


 ああ、よほど悔しかったんだろうね。でも、そんなに気にしなくてもいいのになぁ。俺はそう思ったけど、敢えて何も言わずにアメリアちゃんの言葉に頷いた。


「ナゾウさん、ミナさん、アカネお姉様は隣国について何かご存じですか?」


 アメリアちゃんに問われて三人とも首を横に振ったけど、アカネちゃんがアッと言って呟いた。


「ひょっとして……」


「お姉様、ひょっとして、何ですか?」


 アメリアちゃんに聞かれてアカネちゃんが話し始めた。


「セラムが委員長ナガイと王宮の廊下で話していたのを聞いたんだけど、異人種の国って言ってたのが隣国なのかなって」


 その言葉に顔をしかめながらアランとアメリアちゃんが頷いた。


「姉上がそう言っていたなら間違いない。その国の事だ。俺もアメリアも異人種とは言わないが。俺達が種族としてはヒト種になり、隣国に住む人達は環境に応じて進化したヒト種だと思っている。エルフ種、ドワーフ種、獣人種、グラスランナー種等のヒト種とはその姿は少しだけ異なるが、ヒト種よりも優れた能力を持つ人達が集まって作られたのが隣国、【ケーイオス】だ」


 続けてアメリアちゃんが言う。


「私も兄様も亡き母から隣国について教えて貰っていましたし、父が存命の時にはケーイオスとの交流も盛んでした。ですので、現在のケーイオスの国王陛下、ドワーフ王ヨルガム様とも顔見知りなんです。そのご子息、ご息女とも。ケーイオスは国王をその時に一番強いと思われる方を国民投票によって選ばれます。任期は八年で、新たな選挙で新たな国王が選ばれます。前国王は一代公爵として王宮に残り、新任の国王を補佐します。そして、侯爵としての爵位と領地を貰い、余生を過ごすのです」


 うん、半民主みたいな形式で国を治めてるんだな。でも、国民投票なんてみんな参加してるのかな?


「国民投票の投票率は九割以上なんですよ」


 俺が素直にそう聞いたら教えてくれたアメリアちゃん。おい、聞いたか! 日本の人々よ。国民の義務であり権利でもある選挙には参加しような! まあ、俺はもう参加出来ないんだけど…… 


 それからも二人の話は続く。


「前任の国王で現公爵のグラスランナーのホッパー様は気さくな方で、俺も幼い頃に良く遊んでいただいたのだ。今回はホッパー様を頼って隣国に行くことにしたのだ。ホッパー様からは何時でも来てくださいとのお返事もいただいている」


「それから、勿論隣国に住んでいるヒト種も多くおります。我が国からだけでなく、他の国からも数多くの人がケーイオスに住みたいと言って移住して、認められて国民となっております」


 随分と緩やかな国なんだと思ったけど、法律はちゃんとしていて、国民だけじゃなく国王自身や貴族にもその法律は適用されるそうだ。そして、国を守護する騎士団とは別に、日本でいう所の警察組織、衛兵組織がちゃんとあって、辺境の町であっても治安はかなりいいらしい。

 うん、下手な国よりも先進国なんじゃないかな。俺やミナ、アカネちゃんはそう思った。そんな雰囲気を感じ取ったのか、アランがホッとしたように言った。


「良かった、どうやら三人とも見た目が違う種族に嫌悪感などは持ってないのだな」


「私達の世界でも見た目が違う人は居たよ。それは肌や髪、目の色が違うといった些細な違いだったけど、その人達に嫌悪感を持つような教育は受けてないから。それに、むしろ私は隣国に行ってその人たちに早く会ってみたいの。今、アランくんが言った種族は私達の世界でも想像した概念があって、それと違うのか、それとも似ているのかを知りたい」


 アカネちゃんが少し興奮気味にそう言った。俺もミナもその言葉に同意してるとアランの目を見て頷いた。 


「そうか、概念があるのだな。例えばどんな感じなのか教えてくれないか?」


「エルフは一般的には森を守護する種族として描かれていて、背が高くスレンダーな肢体で、弓矢の他に魔法も得意な事が多いの。ドワーフは鍛冶とお酒が好きで、力持ちで背はあまり高くないけど男性は若くても髭があって、ガッシリした体型だって描かれているわ」


 ミナがそう言うとアランもアメリアちゃんも顔を見合わせて頷いていた。


「すごいな、大体の所は合ってるよ。エルフは優秀な狩人でもあって、ドワーフは鍛冶だけじゃなくて色々な職人がいるんだ。手先がかなり器用だし、魔力操作に長けているんだ」


 それから、アランやアメリアちゃんから昼前まで隣国に住む人達の特徴を教えて貰ったりして過ごし、昼から宿屋の庭を借りてアメリアちゃんも含めてマロに戦闘訓練をお願いした。勿論、昨日と同じく壁をたてて、防音もバッチリにしたよ。


 そして、何とマロの戦闘訓練でアランとアメリアちゃんのレベルが上がった。アランはレベル22と一つだけだが、アメリアちゃんはレベル6からレベル10に上がって、スキルが増えたと喜んでいた。

 アメリアちゃんも隣国に行くのは楽しみにしているそうで、ドワーフの職人に自分の作った魔術道具を見て貰いたいそうだ。そして、改善点なんかも教えてもらいたいそうだ。

 うん、この娘はきっと凄腕の魔術道具師になると俺は確信したね。


 

 

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