第31話 (閑話)その頃王宮では

 第一王女セラムは少しだけイライラしていた。まんまと逃げられた第二王女アメリアの行方が一向に分からないからだ。まさか、転移の魔法陣を使ったとは思わずに、最初は初日で直ぐに見つかると思っていたのだが、一向に足跡を見つけられなかったからだ。


「グーラム、これはまんまと逃げられたようですわね」


「はい、姫様。現在、王宮の内部に協力者が居なかったのか確認中でございます」


「そう、見つけ次第連れてきてちょうだいね。それよりも、あの爺に差し出すモノを創り出す必要があるわ。アメリアとよく似た背丈の者を探しておいてちょうだいね」


「既に何名かあたりをつけておりまする。一人は娼婦の娘でここから抜け出せるなら何でもすると言っておりますが、言葉遣いが悪いのです。もう一人は貧乏男爵家の末娘で、両親によって差し出されました。僅か金貨五十枚で差し出してきおりましたわ。グフフフ」


「あら、それはそれは。可哀想な事ね。一応、二人に会ってからどちらにするか決めますわ」


「はい、畏まりました。明日の朝でよろしゅうございますかな?」


「ええ、そうね。わたくしは今から勇者様方の訓練状況を視察して来ますわ」


 そう言ってセラムはグーラムを下がらせてから、自身も部屋を出ていった。


 その頃、ナガイ、ヒサナガ、アンラクの三人は王都の直ぐ近くにある低階層(十階層)ダンジョンを攻略していた。今は五階層でボスを倒して小休止している所である。


「なあ、ナガイはレベルがいくつになった? 俺は18になったぞ」


「そうか。アンラクは?」


 ナガイは己のレベルを答える事なくアンラクに問いかける。


「私? 私はまだ15ね。二人みたいに直接戦闘に参加はしてないから」


「それでもパーティを組んでいるから経験値は入ってるんだな。僕はやっとレベル20になったよ。コレで少しだけ使用できる魔法が増えたよ」


「レベル20になると何かしら能力が上がるのか? 俺もあと二つだから頑張って上げよう」

 

 ヒサナガはそう言って張り切っているが、ナガイとアンラクがそんなヒサナガに言った。


「そんなに頑張る必要はないぞ。余り強くなり過ぎると早くに戦争に駆り出される事になるからね」


「そう、ナガイの言う通りよ。私達は恐らくあの王女様の気に入らない相手を滅ぼす為に呼ばれたんだから、少しでも長く時間をかけてこの世界の事を知る必要があるわ」


 二人にそう言われたヒサナガは、


「そ、そうか。分かった。俺はどうも体を動かすのが好きだからついな……」


 そう言って二人に頷く。


「ウフフ、ロリ侍女相手にでしょう?」


「フン! そう言うお前は地味侍女相手にして楽しんでいるんだろうがっ!」


「二人とも、せっかく選ばれた職能を手にしたんだからいがみ合うのは止めよう。それに、僕の見立てだともう日本には戻れない。今は協力して力をつけようじゃないか」


 ナガイは二人にそう言って言い合いを止めさせた。


「やっぱり戻れないのかな?」


 ヒサナガはそうナガイに聞いた。


「うん、無理だろうね。戻すと言ったけれども僕の職能による知識では異世界間の転移は出来ないと出ているよ。日本に召喚師が居て召喚されるなら可能らしいけれど、その日本は恐らく僕達が住んでいた日本とは別の世界だろうしね」


 ナガイは的確に状況を判断しているようだ。


「あの王女様に従うフリを今は続けて力をつけておこう。そして、その支配下から逃げ出せるように計画も立てておこうよ。他のクラスメイト達には悪いけどね」


「ウフフ、委員長がそんな事で良いのかしら? まあ、でも私も賛成よ。クラスメイトには興味を引く娘が居なくなったしね…… アカネを狙っていたけど、アイツらの所為で王女に利用されたようだし」


 その言葉にナガイが反応した。


「もしも生きていたなら、僕達が力をつければその内に会えるさ。僕はナゾウをなぶり殺しにしたいからね。僕が狙っていたミナに手を出したんだから……」


「おお、怖い怖い。でも、ミナは私も狙っているのよ、委員長。だから、見つけたら競争になるわね」


 二人の言葉にヒサナガは言う。


「俺はあの二人に興味が無いし、ナゾウにも特別何も思ってないからなぁ。まあ、二人とも頑張ってくれ。力をつけてここから逃げ出せたら、俺は俺で自分の幸せを探す事にするよ」


 三者三様の思惑があるが、先ずは力をつけようという考えは一致したようだ。それから三人は今日の攻略を終えて、ナガイの魔法で王宮に戻ったのだった。


 一方でその他のクラスメイト達は、戦闘に関する職能を授かった者達は騎士達との訓練が義務付けられ、支援職能を授かった者達はその支援方法を学んでいた。アカネをいじめていたササノとサシハラは共に戦闘に関する職能だったので、騎士達との訓練を強いられていたが、何故かアカネの姿が見えなくなってから、二人に対する騎士達の訓練が厳しくなったので毎日二人で愚痴を言い合っていた。

 

 そんな二人にセラムは近づいた。そして、二人に



「お二人は恋人同士だったのですね。本日からはお二人は同室で過ごせる様にしましたわ。少しでも訓練に身が入るようにね。それでは、訓練後にコチラの侍女に部屋まで案内させますので」


 そう言って他のクラスメイト達の元に向かう。

 

 そして、それぞれに個別に声をかけて、また王宮へと戻るセラム。


「フフフ、種はかなり成長してますわ。それに、あの三人の思惑も分かりましたし。馬鹿な子達ですわ。覗かれてるとも知らずにダンジョン内だからだと安心して本音を言うなんて…… でも対策もたてましたし、コレであの異人種共をこの世界から駆逐出来ますわね……」


 そう独り言を言いながら部屋に戻るセラムだった。


 

 




 

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