第26話 村に着いたら

 村に近付くにつれて俺の危険察知とアカネちゃんの危機管理がビンビンと反応している。

 何があった? 俺達は急いで村へと向かった。そしたら門に近い場所に門番さんや冒険者達が揃っていた。そこにアランやセダンさん、ユリアさんもいた。


「アラン、どうした? 何かあったのか?」


「ナゾウ、帰ってきたのか!? それに、アメリアじゃないか! どうやってここまで来たんだ! もう一人、見知らぬ女性がいるが…… 今はいいか、後で話を聞こう。それよりも大変なんだ! もう少ししたらアチラの方角から、ゴールデンボタンボアの群れがやって来るんだ!」


 アランが慌てた様子で言う。その時にマロの声が聞こえてきた。


『フム、そうか大移動か。今年はルート上にこの村があるのだな』


『マロ、大移動って何だ?』


『ゴールデンボタンボアは今この時期に群れで新たな生息場所を求めて移動するのだ。小規模な群れでも八十頭はいるから、その移動上にある村や町では早めに分かった場合は防壁を強化して迂回させたりするのだが…… この村では情報が遅かったのであろう。だから退治しようとしているのだろうが、ゴールデンボタンボアはレベルが15以上無ければ中々手強い相手だぞ。それも一対一での話だ。群れならばレベル20以上無ければ難しいと思う』


 俺は今マロから聞いた話をセダンさんに確認した。


「そうだね、確かにその通りだけども…… 危険を承知でアラン様や僕達を迎えてくれた村を見捨てる訳にはいかないからね」


 そこにアカネちゃんが声を出した。


「ナゾウくん、私の技能が最適解を示してくれてるの。試してみる価値はあると思う」


 その言葉にセダンさんがアカネちゃんを見て質問した。アランは何故かポーッと顔を赤くしてアカネちゃんを見ている。


「うん? この娘も異世界からの客人まろうどなんだね。まあこの際それはいいか。それで、最適解とは? 教えて欲しい」


「はい、あ、私はミナちゃんやナゾウくんと同じ世界から来ましたアカネと言います。先ずはミナちゃんの技能で村を囲うように壁を出して貰います。その壁はボアの体当たりにもビクともしない筈です。それからレベル20以上ある冒険者の人が村を迂回したボアが壁のない場所に戻って来ないように待機して対処すれば、村には損害が出ないと思います」


 アカネちゃんの言葉にセダンさんがミナの方を見る。


「大丈夫、村を囲うように壁は出せるよ。それか村全体を拠点確定も今なら出来るかも? 両方しましょうか?」


 その言葉にセダンさんも決断したようだ。


「よし! 取り敢えずやって見て欲しい。それと、最低でも五頭はボアを退治したいんだ。村の貴重な資源になるから。レベル20を超えているのは僕とそれとユリアが今日20超えをした。後はコチラの冒険者の三人だな。ナゾウ達はどうだい?」


「俺とミナ、それからアカネちゃんは20以上ですね。アランは?」


「俺は後少しだと思うんだけど、まだレベル18なんだ」


「それじゃ、俺達とチームにならないか? 俺とミナ、アランとアカネちゃんが組んでボア狩りをしよう。そしたらアランのレベルも上がるだろうし。サポートはちゃんとするから、一緒にやってみないか?」


 俺の問いかけにアランは少し顔を赤くしながら


「そ、そうか! それじゃあよろしく頼む。アカネ殿、俺と組んでくれるか?」


 そう言った。問われたアカネちゃんの顔も少し赤い。


「は、はい。私で良ければ」


 うん、コレはコレは。いい感じだなあ。って、ミナはもう壁を出していってるな。拠点確定も出来たようだ。よし、それなら俺もサポートで強陣を発動だ。


 壁が村を囲み、そしてその壁の一部を何ヶ所か、人が一人通れるスペースを開けておいて貰う。

 俺とミナ、アカネちゃんとアラン、セダンさんとユリアさん、高級冒険者(銀)三人でそれぞれがボアを狩る事にした。俺は冒険者三人以外に技能を使用して強化した。一応、聞いては見たんだよ。でも冒険者三人は自分たちのこれ迄のやり方があるからと言ったから、素直に引き下がっておいたんだ。


 それから長いようで短い待ち時間が過ぎた。ドドドッと足音を響かせ、土ぼこりを上げながらボアの群れがやって来た。俺達はまだ壁の中だけど、アカネちゃんが隙間から技能を使用した。


「ハアーッ!!」


 どうやら闘気刃を飛ばしたようだ。先頭の五頭が足を斬られてドウッと倒れたけど、気にせずに走ってくるボア。ソレを見てマロが俺とミナにも聞こえるように言った。


『ムウ、凡そ百八十頭だな。アカネよ、壁にぶつかり迂回を始めてから攻撃するのだ。先に倒した五頭はもう踏まれてしまってグチャグチャになっておろう。それではあの肉一切れと金貨一枚が同じ価値だと言われるゴールデンボタンボアの肉が食えなくなる! 大切に狩るのだ』   


 ホントに食い意地だけは凄いな。だけどそんな肉なら俺達も食べてみたいからその指示に従う事にした。


 先頭が壁にぶつかり、脳震盪を起こしてフラフラになっている。しかしデカイな。体長は小ぶりな個体でもニメートルはある。体高も一メートル六十ぐらいかな。これは狩り甲斐があるな。そして、先頭がぶつかり勢いが殺されたボア達は壁の迂回を始めた。

 ソレを見て飛び出す冒険者三人。まだ早いと思うけどなぁ。まあ、ベテランさんみたいだし、口出しはやめておこう。

 俺達はセダンさんとユリアさんに待機してもらって、ミナが別に開けてくれた隙間に移動した。


 群れはそれなりにバラけて、大体ニ〜三十頭ずつぐらいで間隔を開けている。そして、群れの後尾に向かって飛び出した俺達。アカネちゃんは上手くアランをサポートして、ボアとアランが一対一になるようにしている。俺とミナも余り離れずに手近なボアを狩っていく。 

 そして、粗方のボアを狩ったと思って周りを見たら既にミナが収納に収めていた。さすが仕事が早いね、俺の婚約者は。俺とミナはハイタッチを交して喜んだ。

 狩った頭数は四人で二十八頭だ。村で必要な頭数を渡して残りは俺達の食糧だな。アランも無事にレベル21になったようだ。

 そう思っていたら冒険者達三人とセダンさん、ユリアさんがやって来た。


「何だ? 一頭も狩れなかったのか? しょうがないな、俺達は三人で八頭も狩ったんだぞ」


 何故か俺達にマウントを取ってくる冒険者達三人にミナが収納からボアを一頭出して言う。


「ご心配なく。私達も四人で二十八頭を狩ってますから」


「なっ! 二十八頭だとっ!? それに収納持ちか。よし、女、お前は俺達のパーティに特別に入れてやろう」


 ムカッと来たから俺はミナと冒険者の間に体を入れてその男に言った。


「何でお前がそんな事を決められるんだ。それに、格下のパーティに入る訳はないだろ」  

 

 そう言って俺とミナは冒険者証を見せた。


「な、黒金…… し、失礼した。我々は今からギルドに行きます!」


 慌ててその場を逃げ出した三人を見て、どうせ偽物だろうとか、実力もないのにどんなズルをしたんだとかのテンプレ展開を期待していた俺は肩透かしを食った。セダンさんに聞いて見たら、この世界の冒険者証は絶対に不正が出来ないから、それが証明する位を疑う冒険者は居ないそうだ。高級冒険者の最高位になってる俺とミナは、高級冒険者(銀)からすれば、凄い高みにいる事になるらしい。

 ま、まあ俺ツエーを少しやって見たかっただけだから、今日の所は勘弁してやるよ!



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