第24話 ヨダレを垂らした狼がきた

 取り敢えずアメリアちゃんと話をする。俺の質問に素直に答えてくれるこの子はアランの妹だと実感した。そして、今度はアメリアちゃんが俺に質問をしてきた。


「お兄様はどうしているんですか?」


「アランは冒険者になって、今はセダンさんとユリアさんが護衛についてレベルを上げに励んでるよ」


「えっ! お兄様が冒険者に?」


「ああ、それでもう少ししたら隣国に行くって。その時に護衛として俺とミナも付いていく事になってるんだ」


「そうですか…… お兄様は隣国に……」


 アレ、何か落ち込んでしまったな。まあ、取り敢えずアランに会わせてあげよう。そう思ったら気を取り直したアメリアちゃんがココについて聞いてきた。


「それで、ここは一体どんな場所なんですか?」


 そうアメリアちゃんが聞いてきたので、ここは出来て間もないダンジョンで、俺とミナが制覇したので今は只の洞窟のようになった事を伝えた。


「まあ、ダンジョン制覇をされたんですか。おめでとうございます。それならお二人はかなりお強いんですね」


「いや、まだまだ強くないよ。これからも頑張って強くなっていこうと思ってるんだ」


「ご謙遜を。出来て間もないとはいえ、ダンジョンを制覇されるなんて凄い事なんですよ。それに、ダンジョンを見つけられる幸運もお持ちだなんて」


 そこは正直に伝えた。このダンジョンがある場所は漆黒の狼マナガルムが守っている森にあって、俺達は強くなる為にマナガルムにお願いしてここに入らせて貰ったんだと。


「まあ! 神獣様マナガルムが居られるんですね!」


 おお、マナガルムが神獣だって言うのは本当だったんだな。何せ現地に住む人が言ってるんだから間違いないだろう。俺がそう思った時にその神獣様マナガルムがやって来た。


『遅い!! 何をしておるのだ! 我はダンジョンが制覇されてからずっと待っておったのに!! それにこの匂い…… ミノタウロスがおっただろう! さあ、早く地上に戻って我にご馳走するのだ!!』


 ヨダレを垂らしまくってそうのたま神獣様マナガルムを見てアメリアちゃんが引いていた。


『ムッ、誰だ、この人の子は?』


「ああ、この娘はカイール王国の第二王女のアメリアちゃんだ。転移でここに来たんだ。兄ちゃんに会う為に第一王女から逃げて来たんだ」


『フム、そうか。ならば特別に許可しよう。それと、ミナと一緒に居るオナゴだが、もうすぐ死ぬぞ』


 なにー! それを一番に言えよ!

 俺は慌ててミナとアカネさんの元に行く。


「ナゾウ、アカネちゃんが目を覚まさないの。呼吸も段々と浅くなってきたし……」


「ミナ、任せろ。コップを出して水を入れてくれ」


 俺はコップに入れてもらった水に強壮剤を溶かし込んだ。そして、寝てるアカネさんの上半身を支えて起こして、顔が上を向くように支える。口を開けさせ、水を口に少しずつ入れてから背中のある一点をトントンと軽く叩いてあげれば、口中の水がアカネさんの意思に関係なく喉を通って体に入っていった。

 これは母親に教わった意識の無い人に水や薬を飲ませる方法だ。もう会えないけれど、母さんには感謝だな。


 強壮剤を溶かした水を飲んだアカネさんの体が光った。そして、光がおさまった後には痩せてやつれていたアカネさんではなく、見た目がすっかり健康な状態になり、落ち着いた力強い呼吸をしているアカネさんがいた。


『ほう、何を混ぜたのだ?』


「ああ、俺の技能の一つに強壮剤ってあってな。体を健康にしてくれる薬だよ」


『フム、普通はこのような即効性は無いものだが…… ナゾウも神の恩恵を受けておるようだな。異世界からの客人まろうどの皆がうけられるモノではないのだぞ』


「そうなのか? 能力値を見てもそんな項目は出てないんだけど」


『奥ゆかしい神か、おっちょこちょいの神のどちらかだろうな』


 マナガルムのその言葉にちょっと待てと思ったけどまあ、害はないので黙っておく事にした。


「あ、ナゾウ。アカネちゃんが気がついたみたい」


「うーん、アレ? ミナちゃん!?」


 気がついたらミナの顔が自分の顔を覗き込んでいたのでビックリしたのだろう。アカネさんは大きな声でミナの名を呼んだ。


「うん、うん、良かった〜、アカネちゃん。気がついてくれて。あのままだったら危ないって、神獣のマナガルムが教えてくれたの。あ、経緯についてはアメリアちゃんが教えてくれたから、言わなくても大丈夫だからね」


「うん、えっと、アメリアちゃんを知らないけど、ココは一体どこなの?」


「アカネさん、ココは元ダンジョンで今は只の洞窟なんだ。どうも城の転移魔法陣がこの場所に繋がってたみたいで、俺とミナがダンジョンを制覇した後に、アカネさんと第二王女のアメリアちゃんがココに転移してきたんだ」


「あ、ナゾウくんも居たのね。それもそうか、ミナを守る為にウソをついてまで追放されたんだもんね」


 アカネさんは俺のウソに気がついてたようだ。それよりも、


「取り敢えず、もう待てないってヨダレを垂らした神獣マナガルムが急かすから、ココを出よう。それから転移魔法陣は使用不可にしてくれたから、もう誰かが送られる事はないから」


 そう言って二人を促した俺。俺の背後ではヨダレを垂らして危ない目でミナを見つめる神獣マナガルムがいた。


『話はまとまったか。では全員我に触れるがよい。コラッ、尻尾はダメだ! そうそう、背中に触れるのだ。序に撫でてくれても良いぞ! ではココを出るぞ!』


 マナガルムがそう言ったかと思うと俺達全員が外に出ていた。それもマナガルムの巣穴の中のようだ。


『さあ、ミナよ。ミノタウロスを料理するのだ! 一番早いのは何だ? そうか、ステーキか! 我は生焼けでも大丈夫だからなっ!! さあ、焼くのだ!』


 ダメだ、これは先ずは食わせないとゆっくり話も出来そうにないな。諦めた俺とミナは料理の準備を始めた。アカネさんとアメリアちゃんも手伝ってくれた。塩と香草を使って焼き上げたステーキは、シンプルだが、地球で食べたどのステーキよりも美味しかったよ。





 



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