第22話 そして五階層

 たった今、俺とミナは五階層にたどり着いた。

 

 三階層は強敵のゴールデンバット金色コウモリだけで、遠距離攻撃を持たない俺とミナはかなりの苦戦を強いられた。特に毒糞どくふん攻撃に苦しめられたよ。ミナの衛生と俺の剛健が無ければ危うく倒されていただろうと今でも思う。

 が、それもレベル13に上がった時に俺が【強肩】と【強腕】を発動出来る様になった事で解消された。

 空飛ぶモンスター、ゴールデンバットを俺が小石を投げて撃ち落とし、ミナがとどめを刺す。俺も勿論とどめを刺す。核石が金色でキラキラだったので、集めるのも楽しかった。 ……千を超える前は。


 さすがに千を超え、そろそろ万に近いだろうという頃にはすっかり見飽きてしまったけれども。だけどその数のお陰で三階層だけでレベルが18まで上がったよ。三階層に到着時は12だったから、6も上がった事になる。

 そして、四階層の階段のそばにまた拠点を設けて一眠りした俺達は、探索を開始した。

 四階層は地上、空、水中のオンパレードだった。カエルに似たモンスター、オレッドゥトードはミナが拒絶反応を示したので俺が一人で奮闘した。しかし、次に現れたジャイアントナチュラーナ【G】には俺が拒絶反応を出してしまい、ミナが殲滅した。

 こうしてお互いに助け合いながら、四階層を制覇した俺とミナは五階層に降り立ち、拠点を設けて休もうとしていた。


「ナゾウ、大変だったね、ここまで。」


「ああ、ミナ。本当だな。でも信じられないぐらいレベルが上がったよ。今俺はレベル27だよ」


「あ、ナゾウの方が二つも上だね。私は25だもん。やっぱりあのカエルが【G】よりも経験値が高かったんだね。でも、カエルアレは見た目で私には無理だったよ」


 うん、知ってる。見た瞬間に口から泡吹いて気絶したもんな。俺は初めて見たけど、本当に口から泡を吹く事ってあるんだなって思ったよ。


「それでも最初の目標が目指せレベル11だったから、かなり大幅に目標をオーバーしたな。これで少しはこの世界でも安心して生活出来るかもな」


「ううん、まだ安心しちゃダメだよ。今の私達よりも強くて悪い人は居ると思うし、モンスターだってもっと強いのが居るんだもん。コレで満足はしないでもっと一緒に頑張ろうね、ナゾウ」


「勿論だ、ミナ。俺ももっと上を目指すよ」


 そして、明日はいよいよこのダンジョンの最深部であるこの五階層の探索だ。俺とミナは疲れが残らないように早めに就寝する事にした。

 うん、素晴らしい成長を見せてくれる俺の理性に今日も感謝しつつ俺は落ち着いて眠った。


 翌朝、俺達はミナが用意してくれた朝食を食べ終え、後片付けを終えてから慎重に動き出した。五階層は本当にいわゆる地下迷宮ダンジョンになっていて、マナガルムが罠が無いとは言ってくれてるが、慎重に一歩一歩確かめながら歩くようにした。

 そして、モンスターの気配を感じた。


「ミナ、このカーブの先にモンスターがいるようだ。恐らく二体」


「うん、ナゾウ。私も感じたよ。でも四階層のモンスターよりも強い気配を感じるから、今回は私も一緒に偵察に行くね。ナゾウは道上から中間まで見て。それよりも上から天井までは私が見るから」


 作戦を決めて先に進む俺達。カーブ手前で息を殺して先を見たら、ミノタウロス? だと思われる大きな戦斧を持ったモンスターが居た。それも二体だ。けれども、二体は大きな門の前に立っている。門の向こう側は良く見えないけど、門番なんだと思う。


「ナ、ナゾウ、あのね。あのモンスター、A5ランクの和牛よりも美味しいんだって……」


「なっ! それは本当か、ミナ!」


「うん、私の技能にそう出たよ。それで、そのお肉を得る為には首を一刀で落とす必要があるそうなの。ナゾウの槍だと難しいと思うから、私が狙ってみるね」


「よし、それなら俺が一体を引きつけて牽制しておくよ」


「うん、じゃあ行くよ!」


 二人して飛び出したらミノタウロスも反応して戦斧を構えて前に出てきた。


 俺は右側の一体に狙いを定めて石突でミノタウロスの腹を突いた。カウンター気味に入った攻撃はミノタウロスの動きを止める。それから槍を振り回して防御されようがお構いなしに滅多打ちしてミナの方に行かないようにした。

 横目でミナを見たら、大振りされる戦斧を尽く避けて、ミナは何とか懐に飛び込んだようだ。そこで刀を一閃させたミナ。

 余りに鮮やかだったので斬られた事に気がつかずに戦斧を振り回したミノタウロスの頭が地面に落ちた。ミノタウロスの目が不思議そうに俺を見る。

 まるで、いつの間に相手がお前に変わったんだという目だ。しかし、その目から程なく光が消えた。

 そして、


「ナゾウ、任せて!」


 ミナの声が聞こえたので俺は場所を開ける為に大きく後ろに飛んだ。そこに飛び込んだミナが刀を一閃させた。


 何も出来ずに首から切り離された胴体が倒れた。暫く待っていたら何と、各部位に別れてブロック肉が現れた。そして核石も。

 いそいそとそれを収納に仕舞う俺とミナ。


「ミナ、今は塩しか無いから焼くだけにしような。醤油が手に入ったら色々作ろう」


 俺のその提案にミナが


「うん、そうだねナゾウ。早く大豆を探そうね」


 と満面の笑みで応えてくれた。


 それから二人で門の奥を見たら、小さな小屋が見えた。門の方が立派ってどういう事? 


 二人で不思議に思いながらも慎重に小屋に近づいてみた。引き戸を静かに開けてみたら、部屋の奥にブルブル震えてる小さな悪魔がいた。

 怯えているのかと思ったらそうではなく、どうやらお怒りのようだ。


「キシャー、キシャマラー、やっと五階層まで成長させたのにー、何て事をしてくれるー! 普通は十階層以上になってから入ってくるモンだーっ!! こうなったらキシャマラを倒して、更なる成長のかてにしてやるー」


 そう言ったと思ったら窓から外に飛び出した小さな悪魔。えっ? 逃げた?


 と思った俺とミナも慌てて外に出てみたら、小さかった悪魔が大きくなっていた。と言っても一メートルぐらいだったのが倍の二メートルぐらいになっただけだが。その手には杖が握られていた。


「グフフフ、覚悟するがいい、喰らえ! 我が最高の魔法、毒煙どくえん魔法をっ!」


 ミナが慌てず騒がず衛生を使うとアッサリと消える毒煙どくえん。それに慌てたのは悪魔だった。


「バカなっ! アンチマジックだと! それは神から禁止されてる筈だぞ! ズルいぞ!」


 俺は悪魔の頭を石突で叩いて黙らせた。


「アンチマジックじゃないわ。只の技能スキルよ。但しあらゆる毒や病の元を消せるね」


 ミナがそう説明したら、悪魔が


「グワーッ、負けだぁー」


 と叫んで消えた。後にはミノタウロスのモノよりも大きな核石が転がっていた。 

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