第16話 アランくんの初冒険

 翌朝である。部屋に勢いよく飛び込んできたのはセダンさんではなくアランだった。


「おはよう! ナゾウ、ミナ! 起きてるか!? よし、起きてるな! さあ、早く朝食を食べて行こう! スライムが俺を待っている!!」


 いや、待ってないと思うぞアラン。扉の手前で困った顔をしているユリアさんが、俺とミナをみて頭を下げた。うん、ユリアさんに免じてここは許そう。


 それから早く食べろとアランにかされて朝食を食べ終えた俺達五人は村の外に出る前に強壮の効果を確認したら、全員が持続しているとの事だった。

 確認を終えた俺達は村を出た。けれども近辺では既に他の初心者冒険者達がスライムを倒している。そこで俺達はもう少し村から離れる事にした。俺とミナが歩いてきた街道を進んで、スライムがいた場所に案内する。村から歩くこと凡そ三十分でその場所にたどり着いた。そこには先ず、赤スライムが二体いるのを見つけた。

 

「よし、倒すぞ!!」


 勢いよく飛び出すアランの腕を掴んで止める俺。


「待て待て、二体が近くにいるから一体を倒してる間にもう一体に攻撃されるぞ。赤スライムに鎧や服のない場所に体当たりされたら火傷するんだから、慎重に行動するんだ」


 おお、自分で言って何か俺って先輩冒険者してるなぁって思ってしまった。まだ俺も駆け出し同然なんだけどね。

 俺に注意されたアランは呼吸を落ち着けて、謝ってきた。


「済まない、ナゾウ。遂に俺の冒険者生活が始まるかと思うと心がはやってしまってな」


「いやまあ楽しみにしてたんだから、気持ちは分かるよ。けど、もう少し落ち着いて対処しような。怪我なんてしたらそれだけ損をするんだと考えてな」


「分かった。それで、どうすればいいんだ?」


「先ずはアランに強力と強固をかけるよ。それから、もう一体の方を俺が牽制するから、その間にアランは一体を倒すんだ。倒せたら俺が牽制している方を倒すといい」


「よし、それで行こう! 頼んだぞ、ナゾウ!」


 そう言って飛び出すアラン。待て待て、まだ強力と強固をかけてないから。俺は再びアランの腕を掴んで止めた。それから再度のお説教をカマしてから、強力と強固をかけて、アランが前に出る前に俺が先にスライムに向かい、一体を引き離した。


「よし、今だ。アラン」


 俺の声と共にショートソードを構えてスライムに向かうアラン。そして……


「エイッ、トアーッ! ヤァーッ!」


 掛け声は勇ましいけどアランよ、もっと近づかないとスライムにショートソードが届いてないぞ。俺はスライムの二メートル手前でショートソードを振るアランに心で突っ込みながらミナを見た。

 ミナは俺の意図に気がついて頷いてからアランに近づいた。そして、アランに声をかけるミナ。


「アランくん、最初は誰でも怖いんだよ。でもその怖さをねじ伏せてスライムに近づかないと、冒険者生活なんて只の夢で終わる事になるよ」


 うん、言ってる事は間違ってないけど、厳しいな、ミナ。でもその厳しさが良かったのか、アランは、ハイと言いながら一歩半踏み込んでスライムにショートソードを振り下ろした。

 ちょうどアランに体当たりしようと飛び込んできてたタイミングだったので、上手く真っ二つになったスライム。そして、そこで気を抜きそうになったアランにミナが激を飛ばした。


「アランくん、気を抜いちゃダメ! ナゾウが牽制してるスライムがまだ居るよ!」


「ハイ、師匠! いきます!」


 オイ、師匠って呼ぶなら俺の方じゃないのか? 何故ミナを師匠呼びしたんだ、アラン。俺の心の突っ込みを無視してアランが俺に言った。


「ナゾウ、有難う。後は俺に任せてくれ!」


 うん、ここは素直に引こう。やる気がある内にやっておく方がいいからな。俺はアランに場所を譲って下がる。そして、前に出たアランがショートソードを横振りした。

 またもや一刀両断に成功したアラン。そして、忘れずに辺りを見回して、もうモンスターが居ない事を確認。それからやっと構えていたショートソードをおろして手入れをしてから鞘に収めた。

 合格だね。俺が褒めようとしたら先にミナがアランに声をかけた。


「アランくん、良かったよ。初めてでちゃんと残心もしてたし、武器も手入れしてから収めたし。この調子なら直ぐにレベルアップ出来そうだね」


「師匠! 有難うございます!」


 イイなあ、ミナ。俺も師匠って呼ばれたいなあ…… いや、まあそこまででも無いか。アランはどうも熱血派みたいだし、俺は暑苦しいのは苦手だし。

 そこにセダンさんとユリアさんが近くにきてアランに声をかけた。


「どうでしたか? アラン様。初めての実戦は」

「アラン様、一体目の時は訓練時の動きが出来てませんでしたよ。二体目の時は訓練通りの剣捌きが出来ていましたが」


「セダン、やっぱり訓練とは違って恐ろしいと思ってしまったよ。師匠のお陰で克服出来たけど。ユリア、済まない。一体目の時は気持ちが上ずっていたようだ。二体目の時は訓練を思い出して剣を振れたよ」


「はい、それは良かったですね。では、引き続きレベルアップを目指してスライムを倒していきましょう」


 セダンさんの言葉に頷いたアランは俺を見て、


「ナゾウ、また案内を頼む。次は違うスライムとも戦ってみたいな」


 と言ってきた。俺はなら次は水辺に向かおうとみんなに言って歩きだした。水辺なら青スライムが居るからね。それから歩きながらミナに色々と質問しているアラン。俺だって答えられるけど、質問されないからなぁ。少し寂しい気持ちを持っていたら、ユリアさんが俺に並んで言った。


「悪いな、ナゾウ。アラン様もナゾウには感謝しているけれども、やっぱり歳が近いし同じ男だから師匠とは言い辛いんだと思うんだ。それで、ミナを師匠として呼んで、ナゾウとは横に並んで一緒に戦える戦友を目指しているんだと思う。どうかその気持ちを汲んでやって欲しい」


 ユリアさんに言われてそう言えば俺も歳が近くて同性なら師匠って呼び難いよなと思った。だからユリアさんには分かってますよと微笑みながら返事をしたんだ。


 だけどうん、やっぱり師匠って言われてみたいなぁ。


   

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