第11話 第二王子がいるそうだ

 俺達二人のジト目にも平然とした顔で話を続けるセダンさん。


「それでだ、君たち二人に頼みたい事があるんだ。あの姫様は君たちに何て言って自分を正当化してたんだい。それを教えてくれないかな?」


 ジト目攻撃が効かないと悟った俺は仕方なく普通の顔に戻して、覚えている限りであの第一王女の言葉をセダンさんに伝えた。


「ナルホド、ナルホド。そう言って君たち異世界からの客人まろうどを騙したんだね。それで、君たち二人は即座に追放されてしまったと…… それじゃ第二王女様の事は知らないよね?」


「はい、俺達が会った王族は第一王女だけです。他にもまだ居たんですか?」


 俺がそう聞いたら


「うん、第二王女様は第二王子であるアラン様と本当のご兄妹でね。あ、母親が同じという意味でね。アラン様も妹である第二王女様の事を気にしておられるんだけどね。中々、助けに行けないというか、セラム姫様の間者もここには既に居て、ここにアラン様が居る事もバレてしまったしね。困ってるんだ」


 うーん、この人は何を言ってるんだろう? 俺達には関係ない話だよな。そもそも王族と関わるつもりは無いんだし。俺は疑問に思っただけだが、ミナは直接問い質した。


「セダンさんは第二王子のアランさんの派閥におられるんですね? で、アランさんもここにいて、それもあの奥の部屋に滞在されているという事で合ってますか?」


 ミナにそう言われてセダンさんは不思議そうな顔をして言った。


「アレ? 最初にアラン様にお仕えしているって言ったよね、僕は」


「「聞いてないっ!!」」


 俺とミナのツッコミがハモった。


「ハッハッハ、そうかぁ。言ってなかったんだね。ゴメン、ゴメン。僕の悪いクセでね、言ってないのに言ったつもりになってたよ。ハッハッハ」


 ダメだ、この人。何を言っても効きそうにないな。俺達二人は呆れて続きを促した。


「ああ、有難う。それでね、二人にはその職能を利用してアラン様を守って隣国に連れ出して欲しいんだ。勿論、僕ともう一人騎士がいるから、君たち二人にばっかり仕事はさせないんだけど。それと、これから二人が生活をしていくのに身分証も必要だろうから、この村の冒険者ギルドで登録してもらって、それから君たちに依頼を出す形にするから頼めないかな?」


 そう言われて俺とミナは即答を避けた。先ずはアランさんに会ってみたいと言って。


「うんうん、それもそうだね。アラン様は現在十六歳で、聡明な方だよ。よし、先ずはアラン様に会ってもらおう。さあ、行こう」


 何でも早いな、この人は。既に椅子から立ち上がり部屋を出ようとするセダンさん。俺とミナも慌てて追いかけた。 


「アラン様、入りますよー」


 ノックもせずに部屋に入るセダンさん。そして扉を開けたまま俺達に


「さあさあ、入って」


 と言う。俺達二人は


「失礼します」


 と声を揃えて中に入った。中では同じ年頃の金髪で碧眼の男子と、その後ろに立っている銀髪碧眼の女子がいた。その女子がセダンさんに声をかけた。


「いきなり見知らぬ御仁ごじんをアラン様の部屋に入れるとはどういうつもりだ? セダン」


 そう言いながら腰の剣に手をかけた。


「はいはい、ユリア。カッカッしない。ドウドウ。この二人は僕が認めた異世界からの客人まろうどだよ。第一王女セラムに無理矢理この世界に連れて来られて、元の世界にも帰れないんだから、この世界での身分証をスムーズに手に入れられるように僕が手を貸して、その代わりとしてアラン様の護衛をお願いしたんだ」


「なっ! アラン様の護衛なら私が居るではないかっ!!」


「まあ、待て。ユリア。お二人はあの姉にこの世界に召喚されたとか。私が謝っても何もならないが、この国の王族として、代わって謝罪しよう。本当に申し訳ない」


 良かったよ。アランさんはマトモな人のようだ。俺はホッとした顔でミナを見た。ミナの顔も同じ表情を浮かべていた。


「アランさんが悪い訳ではないので、俺達はアランさんには何も悪感情は持ってません。そして取り敢えず、まだセダンさんの話を俺達二人は受けた訳ではありません。ただ、少しアランさんとも話をしたいと思って」


「貴様、アラン様だ! 貴様如きがアラン様をさん付けで呼ぶなっ!」


 騎士の女子が俺にそう言った瞬間に、セダンさんが


「ああ、この騎士様はユリアと言ってアラン様至上主義だから無視してもダイジョーブだから」


 そう俺に言ってきた。そして、アランさんも


「ユリア、彼らはこの国の者ではない。それよりも私に敬意を払うどころか憎まれてもおかしくないのだ。そんな彼らはまだ礼儀正しく受け答えしてくれている。だから話の腰を折るな」


 そう言ってユリアさんを叱った。


「は、はい。申し訳ありません、アラン様……」


 あらら、本当にしょんぼりしちゃったよ。そう思ったけど気を取り直して俺はアランさんに話しかけた。


「俺はナゾウと言います。こっちはミナです。いきなり第一王女セラムにこの世界に召喚されて、そして王都を追放されました。何とかこの村にたどり着いた所、門番の方に入るのを止められて困っていましたが、セダンさんが保証人になってくれて入る事が出来ました。そして、今回のセダンさんの頼みなのですが、俺はもう少しこの村に滞在してやりたい事がありますから、もしもアランさんが直ぐにこの村を出て隣国へ行かれるつもりなら、俺達はその頼みを受ける事はできません」


 俺は名前を告げながらも、先程まで考えていた事を話した。ユリアさんがまた何かを言いかけたけど、何とか喋るのをやめたようだ。うんうん、また不用意に何か言うとアランさんに怒られるからね。そう思っていたら、アランさんが


「いや、私もまだこの村に用事があるし、隣国に向かうのは二週間以上は先の話なんだ。私としてはセダンが頼みをするぐらいのお二人には是非とも力を貸して欲しいと思うのだが、二週間以上先の出発ならばどうだろうか? 勿論、謝礼はする」


 そう聞いてきたので、ミナに目でどうすると問いかけたらミナが頷いたので、


「分かりました。二週間以上先ならば一緒に隣国に向かいましょう。それからセダンさん、冒険者ギルドへの登録を明日、したいと思います。よろしくお願いします」


 そう俺は返事をした。


「うんうん、ナゾウくん、ミナちゃん。僕に任せてよ。それじゃ明日、朝食後に一緒に冒険者ギルドに行こう」


 ユリアさんにはまだ険しい目で見られていたけれど、俺とミナは失礼しますと言って部屋から出て、自分たちの部屋に戻った。


「ナゾウ、やっぱり元の世界には帰れないんだね。それを何とかみんなに伝えてあげたいけど……」


 ミナは優しいからハブられてもクラスメイトにこの情報を伝えたいようだけど、俺は自然とクラスメイトにも分かると思うよとミナに言って、明日からの行動の相談を始めた。






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