第10話 着いたよー

 あれから三日が経った。王都を追放されてからは今日で七日目になる。そして、遂に俺達は村とおぼしき場所にたどり着いた。

 

 木で作られた防壁は俺達二人の目には頼りなく見えたけど、それでも村の門に立っている門番らしき人は筋骨隆々で頼もしい感じの人だった。俺とミナを見たその人は


「そこで止まれ。何か身分を証明する物を持っていたら出すんだ。無いなら何処から来たかを言ってくれ」


 そう声をかけてきた。俺とミナには身分を証明するような物が何もない。いや、学生証はあるけどこの世界では通じないよな。そこで、俺は正直に言った。


「実は王都を追放されて……」


 続きを言おうとした俺を睨みつけて、門番さんは怒鳴った。


「何ーっ! 王都からだとっ! 貴様らまさか、あの悪逆姫の手先かっ!?」


 いきなり怒鳴られてキョトンとしてしまった俺に門番さんは持っていた槍を突きつけた。


「直ぐにここから立ち去るなら攻撃はしない。だがあくまで村に入ろうとするならば、死ぬまで攻撃するぞ!」


 気合が入りまくった門番さんの言葉に俺とミナが困惑していたら、村の中から声がかかった。


「セームさん、そのお二人は姫の手先ではありませんよ。村に入れて上げて下さい」


 村からそう声をかけてきたのは銀髪のイケメンさんだった。


「セダン殿、しかしですな……」


「ダイジョーブ、僕が保証しますから」


「むう、セダン殿がそう仰るなら。それでは、すまなかったな。村に入ってくれ」


 セーム門番さんは槍を横に持ち直して俺達に頭を下げて道を開けてくれた。


「いえ、それでは失礼します」


 まだ少しビクつきながらもその横を通って俺達は村に入った。中にいたセダンと呼ばれたイケメンさんがにこやかに話しかけてきた。


「やあ、災難だったね。僕はセダンって言うんだ。この村に一軒しかない宿に案内するよ。そこで少し話をさせて貰ってもいいかな?」


 俺はミナと顔を見合わせてから、頷いた。


「はい。よろしくお願いします。俺達もお聞きしたい事があります」


「うんうん、だよねえ。答えられる質問には全部答えるよ。じゃあ、こっちだよ」


 そう言って歩き出したセダンさんの後ろを付いていく俺とミナは、村人達からの視線を受けながら小声で話をした。


「あの姫様の事なんだろうな、悪逆姫って」

「そうだね、ナゾウ。追放されてから誰にも会ってないから、どういう事か分からないけど……」

「宿に着いたらセダンさんに聞いてみよう」

「うん、分かった」


「相談はまとまった? そんなに警戒しなくてもダイジョーブだよ。僕は君たち二人に危害を加えるつもりはないからね。それと、聞きたい事は姫からどんな話を聞いてるかだけだから」


 俺達が話し終えたときにセダンさんからそう言われた。それからはお互いに黙って宿まで向かった。宿に着いたらセダンさんが受付をしてくれて、何泊するか分からないから、取り敢えず金貨一枚を払っておいたら、お姉さんに


「そ、そんなにいただけません。何泊されるおつもりですか? 銀貨はお持ちじゃないですか?」


 って言われたけど、全くもってないのでそれで泊まれるのは何日でしょうと聞いてみた。セダンさんは横で口を抑えて笑っている。


「えっと、一泊が銀貨四枚ですから…… えっと……」


 お姉さんが計算に困っていたら、ミナが


「銀貨が何枚で金貨一枚になりますか?」


 と質問した。


「銀貨が百枚で金貨一枚になります」


「それじゃ、金貨一枚で二十五日は宿泊出来るんですね。取り敢えず、私とナゾウは同じ部屋でもう一枚金貨を払うので、二十五日の宿泊でお願いします」


 と、お姉さんに言って金貨を出した。お姉さんはセダンさんを見たが、セダンさんが頷いたのを確認して、


「はい、それではお部屋にご案内します」


 と受付から出てきた。けどそこでセダンさんがお姉さんに言った。


「ああ、クレアさん。彼らは僕の隣の部屋に入って貰うよ。構わないかい? そう、いいんだね。それじゃあ、案内も僕がするからクレアさんは安心して受付に居てよ」


「セッ、セダン様……」


 受付のお姉さんが返事をする前にセダンさんは勝手に決めて、俺達にさあ、コッチだよと声をかけて廊下を奥に進んで行く。俺はクレアさんお姉さんを見たら、呆れたのか諦めたのか、セダン様に付いて行って下さいと言われた。


 そして、奥に行くとセダンさんが部屋の前で待っていて、


「さあ、お二人はこの部屋に泊まってくれるかな? この部屋の右側が僕の部屋なんだ。あと、奥に見えてるあの部屋は話を終えたら案内するよ。ある人に会って欲しいんだ。で、僕の部屋だと狭いからお二人の部屋にお邪魔してもいいかな? あっ、そう、いいんだね。有難う。さあ、廊下に立ってないで入ろうよ」


 一つだけ言っておく。俺もミナも一言も喋ってない。だから、いいとは一言も言ってないのだが……

 ミナと顔を見合わせたけど、結局は話を聞かないと落ち着かないから、俺達は俺達の部屋にセダンさんの後に入った。


 部屋は広かった。どうやら三人〜四人が泊まれる部屋のようで、俺達二人で占領してしまって良いのだろうかと思ったけれど、セダンさんが既に部屋の机にお茶を出して椅子に座っている。


「さあさあ、異世界からの客人まろうど二人もコッチに来て座ってよ。立ってたら落ち着いて話が出来ないよ」


 うん、この人は何かを確実に知ってるんだろうなぁ。俺が口を開く前にミナがセダンさんに言った。


「人物鑑定のスキルをお持ちなんですね、セダンさん」


 ミナの言葉に、


「アレッ、そんなに簡単に分かるモノなの? それとも君たち二人も鑑定持ちなのかな? まあ、いいや。安心してね、僕が見えるのはこの世界での名前、年齢、性別、職能だけだから。で、何で二人が異世界からの客人まろうどかと気づいたかと言うと、二人ともこの世界には無い職能を授かっているからだよ」


 アレッ? 俺はともかくミナの職能はあるってグーラムの爺さんが言ってたよな? 

 ミナも疑問に思ったのだろう。素直にセダンさんに聞いた。


「私の職能についてはこの世界の庶民の方が持つありふれた職能だって、グーラムというお爺さんが言ってましたけど……」


 ミナがそう言うと、セダンさんは


「ああ、グーラム師匠大分だいぶあの姫様に感化されてボケて来たのかな? グーラム師匠の言った職能は【家事手伝い】だよ。ミナさんの職能は【家事見習い】だよね? そんな職能はこの世界には無いよ。それから、ナゾウくんの【丁稚でっち】っていう職能もね。君たち二人はカイール王国の初代国王と同じくひねくれ神の気まぐれ職能だと思う」


 そのネーミングひねくれは何とかなりませんか、セダンさん。ミナも俺と同じ気持ちだったようで、二人のジト目がセダンさんを射貫いていた。

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