第34話 元の世界への戻り方 その2
「美波のしたいようにすれば良い。ここにいたいのならここに居ればいいし、帰りたいなら帰ればいい」
ナノは美波の判断に従うということだろう。
「わ、私は、ナノ様ともみんなとも離れたくない。だけど、お母さんともお姉ちゃんとも会いたい。星華にも会いたい」
なんて自分は欲張りなんだろう。
何かを得るには何かを捨てなきゃいけない。
でも今の美波は何かを捨てて何かを得る勇気は無い。
本当に困った人間だ。
「この、“誰かから強く生きてほしいと思われること”ってどういうことなんですかね」
ラフィーが呟く。
「美波ちゃんはここに来るとき誰か生きてほしいって思われた人に思いあたることってない?」
「誰か……。……もしかしたら、お父さん、かもしれません。もういないんですけど。私を最後まで守ってくれたのはお父さんなんです」
10年近く前のことだ。
美波の住む地域で地震が起こったのだ。今回と同じぐらいの大地震が。
その時美波は父親の仕事現場である病院にいた。
父親は医者で父の働く病院からは美しい海が一望できるほど海に近かった。
地震の被害こそ多くなかったが津波が病院を襲ったのだ。
もちろん、できるだけ患者さんは上へ上へと逃げた。
でも、中にはそうもいかない患者さんもいる。
美波は比較的軽症な患者さんを連れ高台に逃げたので今生きている。
しかし父親は逃げる事が叶わない患者さんに最後まで寄り添い、美波に『必ず生きろ』と言ったのを最後にこの世を去った。
美波が防災に強くこだわる理由はこれだ。
美波はあの時から父の『必ず生きろ』と言う言葉を胸に辛いことも乗り越えてきたのだ。
深い後悔を抱えながら。
「……だから、私に生きてほしいと願ったのは、もういませんけどお父さんだと思います。あと、星華に生きてほしいと願ったのは私ですね」
「星華ちゃんに?」
アーロの問いに美波は苦笑いで答えた。
「はい。事故に遭ったのは私で、星華は私を庇ってくれたんです。だから、星華だけでも助かって欲しいなって」
そっか。とナノ様が呟いた気がして振り返る。
「美波は本当はどうしたい?」
本当は。
本当はここにいたい。
戻れるかも分からないのに死ぬのは怖い。
そして何より、ナノ様と離れたくない。
「私、ここに残ってもいいですか?」
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毎日21時に公開すると決めたのに前回は予約をし忘れておりました。すみません。
多分ですが、次回、35話でこちらのお話は完結になると思います。
是非、最後までお付き合いください。
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