第13話 美波の混乱
「『防災』っていうのはお前が作った造語か?」
……は?
既存の言葉ですけど。
まさかこの世界に『防災』なんて言葉ないの?
さっと血が引いて行くのを感じる。
「………そうです」
既存の言葉ですけどね。
美波には肯定するしか選択肢はなかった。転生してきたのは内緒だから。
「『防災』っていう言葉は防ぐに災害の災です。つまり災害の被害を出来るだけ少なくする方法のことです」
まさか『防災』の言葉の説明をする日が来るとは思ってもいなかった。
でもそれほどこの世界は『防災』に対して不頓着だということだろう。
「そんな方法があるのか?」
なぜか食いつきがいい。
「あるっちゃありますけど」
「教えてくれ」
「災害の種類にもよります。地震とか台風とかそういうの教えてくれないと無理ですよ」
まぁ、そういうの企業秘密いや、騎士団秘密?で教えてくれないんだろうな。
「実は北東部で大雪でな、家屋の崩壊が凄いんだ。なんとかできないか?」
……教えてくれるんかい!
「積雪ですか……。その地域のお家のお写真とかってありませんか?」
「セシル、書斎に行って写真取ってこい」
かしこまりました。と後ろに控えていたセシルが部屋を出ていった。
2人きりになった部屋にやけに重たい空気が流れる。
「なんでお前は『防災』に興味を持ったのだ?」
沈黙を破ったのはナノだ。
「私のお……。いえ、防災は正義ですから」
本当の事を言おうとして、やめた。
代わりに出した答えは問いに対してしっかりとした返答ではない気がする。
「正義?」
「女の力で守れることってたかが知れてるんです。私が剣を握ったところで沢山の人を救うことはできない。だけど防災ってこんな
あの日、あの時、の後悔がいつも美波を襲う。ああしておけば、こうしておけば、こうはならなかったのにといつも思う。
「私にとって『防災』は剣より強いんです」
「……そうか」
何か考え込んだような声が返ってくる。
ここで美波は自分の失言に気づいた。
「すみませんっ。騎士団長を務めるナノ様に向かって、剣より防災の方が強いとか……」
「いや、気にするな。確かに私は人には勝てるが自然には勝てないからな」
「持って参りました。ミナミ様、こちらでよろしいですか?」
セシルが戻ってきて美波に1枚の写真を差し出した。
こじんまりとした家の写真。
「この家、積雪のすごい地域の家ですか?」
そうですけど、と当たり前のように言ってるセシル。
……屋根めっちゃ平らなんですけど。
そら、屋根に雪積もって家崩壊しますよ。
「屋根を急な三角形にしたら家屋の崩壊はかなりマシになると思います」
分かった。ありがとう。そう言ってナノ初日の言葉を放った人と同一人物とは思えないほど嬉しそうにセシルと部屋から出ていった。
……私にお役に立てたかも。
好きに一歩近づいた気がする!
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