悪罵の言葉が


「ず、ずいぶん、わたしのことにお詳しいみたいですけど?」


 挑戦的にエルトがにらむ。一方のルゥルは丁寧に、


「それはもう。エルト様は抹殺指令の第一位、最優先で殺すべき方でしたから」

「ひっ」

「そういう言い方しないでルゥルさん! エルトが怖がるでしょ!」


 ルゥルにしゃべらせておくと、またぞろ神官たちの心象が悪化しそうだ。

 フェストゥム退治には彼らの協力が必要となる。これ以上こじれる前に、バッシュは話をまとめにかかった。


「聖堂に許可なく立ち入ったのは、俺が謝ります。でも、どうか大目に見て欲しい。彼女の立場としては、俺がいる以上、立ち入らないわけにはいかないんです」

「それは、どういうことですかな?」


 ここの長たる大神官が、やわらかく問う。口調は穏やかだが、刃物を布でくるんだような、剣呑な響きがあった。


 バッシュは慎重に言葉を選び、


「常に俺の側にいるようにと、命令を受けています。先回りして言いますが、攻撃のためじゃない。むしろその逆で、身辺警護を担ってくれてる」


 その説明を受け、神官たちがひそひそと声をかわした。


「何故、勇者に魔族の護衛がつく?」

「誰から護るというんだ?」

「もしや……」


 不信感を拭いたいが故の発言だったが、逆効果だったようだ。とは言え、婚姻を妨害しようとする勢力がいる、などと吹聴して回るわけにもいかない。


「とにかく、俺たちはもう出ますから。俺の傷を手当てしてくださって、ありがとうございました。さささルゥルさん、参りましょう行きましょう!」


 ルゥルの背を押し、うながす。そそくさと逃げ出すバッシュの背中に、神官たちの腐すような声がかかった。


「嘆かわしい……魔族などに媚びを売って」

「あれでは英霊たちが浮かばれんぞ……!」

「もはや勇者ではない。主に背き、人界を売った涜神者だ!」


 聞こえるように言われているが、バッシュは聞こえないふりをする。


 7と3年前、バッシュは浮浪児だった。騎士寮に居ついてからも、陰口を叩く者はいた。悪口など聞き慣れている。


 しかし、無抵抗は必ずしも美徳ではない。反撃がないとわかれば、人間はどこまでも付け上がれる生き物だからだ。


「ふん、魔族の雌め、どのようにして取り入ったのやら」

「あの作り物の美貌で、たらし込んだのであろうよ」

「毒婦が。見るからに淫臭がにおっておるわ」


 バッシュの足が止まった。


「――バッシュ様」


 となりのルゥルが視線で制する。


 彼女とはまったく気が合わないはずなのに、不思議と互いの思考が読めた。

 ルゥルはこう言っている。『妙な考えは起こすな。黙って立ち去るべきだ』と。


 それはわかっていたのだが、バッシュはしかし、振り向いた。

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