ニ度目の戦争 ②

 1919年7月28日。

 大陸は三カ国を巻き込む戦争状態にあった。


 北の海に浮かぶ島嶼とうしょこく、〈帝国〉の軍事侵攻によって、ヴォルフ共和国は開戦からわずか3ヶ月で国土の約60%を喪失。危機的状況に瀕していた。


 直ちに同盟国の〈連邦〉と共に反攻に出るも、共和国が劣勢の戦局はくつがえる事はなく、不利な状況のまま停戦協定を締結。

 穀倉地帯を含む領土の東側を帝国に奪われ、ヴォルフ共和国は西されたのである。


 後に〈第一次大陸間戦争〉と呼ばれる一連の戦闘は1923年11月11日まで続き、4年に渡る戦間期の死者は、共和国だけで将兵200万人、民間人90万人を数え、副次的ふくじてきに20万人の戦災孤児を生み出すに至った。


 苛酷な戦間期、そして暗澹あんたんたる戦後の記憶は、当時のヴォルフ人達に強く刻まれ、その後の国家体制に様々な変化を引き起こしていく。


 まず、国境の要塞化が急速に進み、構築された防衛線の維持に大量の兵員が必要となった。このため、徴兵の対象に女性が含まれるようになり、性別の区別なく全国民が兵役の義務を負う事になる。


 その他、陸軍の主力である砲兵部隊の増強や、兵力・物資の迅速な移送を目的とした鉄道網の整備が進められたが、最も注目すべき点は別に存在する。


 それは、当時としてはまだ真新しい『航空機』の導入と、空軍の創設である。

 既に航空機の軍事利用を進めていた同盟国〈連邦〉の全面的な支援を受け、軍用機の運用、戦術の研鑽けんさん、新型機の共同開発に乗り出していく。

 

 くして、農業立国として発展を続けてきたヴォルフ共和国は、「要塞線による国境防衛」、「砲兵部隊の大量配備」、そして「航空戦力の拡充」という3つの大綱たいこうかかげ、軍備拡張への道を突き進んだ。


 しかし戦争の終結から16年もの時が流れ、人々が負った戦火の傷痕トラウマは徐々に薄れつつあった。


 平和に暮らす事に慣れ始めた国民の間には、頭上をおおう海雲を見上げ「今年も愛すべき冬が始まり、何事もなく春を迎えるだろう」と、将来を楽観視する気運が高まっている。


 ――だが、彼らが思い描くような安穏あんのんたる冬が訪れる事は無かった。


 分断された東側の領土に建てられた、帝国の傀儡かいらい国家〈東ヴォルフ自治区〉が突如として宣戦を布告。共和国との国境全面において攻勢を開始したからである。

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