戦争

二度目の戦争 ①

 大気は完全にみ渡り、あざやかな青色をたたえた秋空が広がっていた。


 一面に広がる麦畑が穀倉地帯を黄金こがね色に染め上げている。熟したが北風に揺れてさざめき合い、大地にいくもの波を描きながら、陽光ようこうの下で輝きを放っている。


 ばんしゅうに差し掛かる10月。大陸の中央に位置する〈ヴォルフ共和国〉は、一年の中で最も慌ただしい収穫時期の只中にあった。


 広大な穀倉地帯に育つ作物をり終え、つきなかばを過ぎる頃、あきれが続いた空に急激な変化が訪れる。


 高峰こうほうつらなる北の山脈から広大な層積雲そうせきうんが現れ、天上をおおい尽くしていく。その雲は秋の気配を大陸から追い出すように広がり続け、やがて雲海となって白銀の雪を降りき始める――。


 雲海の到来と降雪。

 古くから繰り返されるこの気候現象は、ヴォルフ共和国に暮らす国民にとって特別な意味を持つ。

 四季の中で最も心待ちにしている、冬の到来をしらせるものだからだ。


 ヴォルフ人たちは過酷な農作業から解放され、冬ごもりに入るこの季節を心から愛している。

 温かい暖炉の前で家族や友人と語らいながら、腸詰め肉ヴルスト燻製くんせいを頬張り、大麦のラガーを飲み交わす。じゃが芋やキャベツ塩漬けザワークラウトを用いた料理でいろどられた食卓を囲い、ギターやフィドルをかなでながら、暖かな春を待つ――。


 牧歌的ぼっかてきな生活様式を根強く残すヴォルフ共和国だが、その歴史は平坦とは言いがたい。


 この国は20年前の戦争によって、国土を引き裂かれた過去を持っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る