07 - ありがちな起承転結

「――や、やっぱり私の躰が目当てだったのねっ!!」


 そして私の心は闇に染まっていく。

 きっと今から、伏せ字になるようなあんなことやこんなことをされちゃうんだわっ!! 薄い本のように!! 薄い本のように!! 大事な事なので二度言いました!!

 彼は先程から沈黙を守っている。俯いた顔、小刻みに揺れる肩。

 あぁ――胸が苦しい。目の前が赤く染まっていく。お父ちゃん、お母ちゃん、おバカな娘でごめんね――。


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


「……ぷはーっ!!」


 ……ん?……んん??

 いや待て、そこ噴くとこやない(怒

 そもそもこんな、乙女の貞操の危機というシリアス且つサスペンスな場面で笑うなど、映画ならリテイクものだ。

 火サスや土ワイならここで迫ってくる犯人を舐めてから恐怖に怯えるヒロイン(=私)のバストアップでカットになり、お馴染みのアイキャッチの後にCMという一番の見せ場ではないか。その大事な場面で吹き出すなど言語道断、緊張感が無い、緊張感が!!


 ふと見ると、彼は躰をの字に折って大笑いしている。な、な、今のシーンの何処に笑うとこあるってのよー!!


「――あーっはっはっは!! ……た、頼むから暫く黙っとってくれんか!! あんた、俺を笑い死にさせる気ぃかwww」

「――はぁっっっ!? わ、笑って誤魔化そうったってその手は桑名の!!」

「や、やめろ……腹の皮が捩切れるwww」

「さ、さっきから聞いてれば黙ってろとか何とか、人に聞かれたらマズいことでも!?」

「生憎と他には誰も居らんわぃwww てか、気付いとらんかったのか?」

「何がですかっ!?」

「あんた、さっきからずーっと、大きな声で独りつ言うとったがね」

「――!?」


 え!?

 まさか、今までの、全部、声に、出てた……だと?


「ちなみに今のも出とる」

「――っ!! えーっと……参考までにお伺いしますけど、どの辺から……?」

「妄想がどうのとか不気味にデュフフフとか笑っとった辺りから」


 ――ジーザス!! あ、違った、掛けまくもかしこ伊邪那岐大神いざなぎのおほかみ以下略!!

 選りに選ってそっからかーい!! そ、その前まではきちんとアカデミックな考察してたのにー!! わ、私の知的なイメージが……。


「いや、そもそもそんなイメージ無いからw」


 む。ンだとー!! ……あら? この人何で私の思考が読めるの!? テレパスかしらやだこわい(( ;゚Д゚)))


「――いや、だから、さっきからほぼほぼ全部、声に出とるってw」

「そ、そんな筈は……」

「アンタ、周りの人らから独り言が多いとか言われたこと無いか?」


 ――ギクッ!!Σ(゚Д゚;)!!

 い、いかん、思い当たる節が多すぎて枚挙に暇が無い……orz


「やっぱりなぁ……まぁ、こっちが言葉足らずだったのも悪かったか(´・ω・`)」


 がっくりと肩を落とす。あれは自省の念もあるとは思うが、少なくとも半分は私に呆れたのが原因と拝察される。


「……あ、あはは……そ、その、御免なさい……なんかこう、昔っから悪い方に悪い方に妄想が捗りがちでして……」


 ――そっか。私ってこんなんだから、菁児さんにも愛想尽かされちゃったのかもなぁ(´・ω・`)

 そんなマイナス思考な陰キャ女とか、好かれる訳ないよね。そりゃ辛気臭いとか言われるわ。

 人を責める前に自分のこの性分をなんとかしなきゃ駄目だろうな。でも今更どうなるもんでも……。


 ――そこまで思索の沼に沈んでから、と我に返る。

 やべ、まさか今のも声に出てた!?


 恐る恐る彼を見るが、表情は変わっていない。よし、セーフ。


「――で、ぼちぼち日も傾いてきたんで戻るが、その前に」


 彼は自分の背後、即ち私の正面を親指を立ててくいっと指し示す。

 あ、目の前が赤く染まっていたのは比喩とか心象風景じゃなくて夕陽か。とほほ。

 お嫁に行けないを通り越してもう人としてどうなんコレ!?と自分で自分にツッコみつつ、拝殿を取り囲むガジュマルの切れ間から覗く夕陽に目を遣る。


「――うわぁ……!!」


 その隙間から目の前に拡がる景色は。


 さっきまでの空を覆う雲は上空へと飛び去り、海が綺麗に見渡せている。

 その海に向かって伸びていく道。そしてぽつぽつと浮かぶ小さい島。

 その島々の先、一番目立つ島の頂部には灯台が天に向かってその白い壁をすっくと伸ばしている。

 それらと、その下で砕ける代償の波濤が夕陽に赤く照らされる様は――!!


「――っ……!!」


 ――あれ!? 私、泣いてる……の?

 彼は少し離れて同じ方向を見つめている。

 今だけは、その沈黙が、有り難い。


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


『黒騎士さんの近況報告:20**年12月14日


 只今何故か本土最南端なう。ちょっと路線を間違えただけなのに、どうしてこーなった(´・ω・`)』


 [ ほくとななをさんからの返信]


  マジかー!! なんたる偶然!! そこウチの地元圏内!!

  もしかしたら何処かですれ違ってたかも……!?』


  [黒騎士さんからの返信]


   ななちゃん、ジモティでしたんかい!!

   何処かで会えると良いなぁ……っても会っても判んないわー!!

   うぅ……知ってる人が一人も居ないので淋しくて絶賛情緒不安定なう(´・ω・`)

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