05 - ありがちな南国情緒

 そして夫婦鳥居の神社を後にしてかれこれ1時間。

 車は更に人気ひとけの無い方へ進んでいく。

 今までは辛うじて点在していた人家もほぼ眼に入らなくなり、周りは原っぱか木が生い茂る、まるで原生林のような雰囲気に――。

 こりゃガチで僻地だわ(失礼)――もうこんなところで車から降ろされた日には遭難必至よね。そして翌日のニュースで悲嘆に暮れる両親の姿が――。


「――おい」


 うぅ……先立つ不孝をお許し下さい、お父ちゃん、お母ちゃん。真理子はそれでも幸せでした――。


「おい。大丈夫か――色々と」


 む。失礼な。私は今、最後のお別れを――。


「さっきからやけに静かやと思ったら百面相大会が始まっとるけど、頼むからあんまり笑わせんでくれよwww」

「な、何を――人が大真面目に」

「大真面目に?」

「――い、いぇ、ナンデモアリマセン……(((*ノд`*)」


 言ってて急にこっ恥ずかしくなってきたよ……もうお嫁に行けない(TдT)シクシク……行かんけど。


誠にまこち、見てて飽きの来ん人やなぁwww」


 ぐぬぬ……こいつそのうちぎゃふんと言わせてやるー!! ε=ヽ(`Д´#)ノ


「そういや、なんだかなーんにも無いんですけど……何処にいくんですか?」

「済まんなぁ、ここまでは今日中にやっとかんと、そうそう行ける所でもないもんで――お」

「お?」

「ほい、31度線越えた」

「はい?」

「道端のそこ、記念碑みたいの建っとるやろ」

「記念碑?」


 停車した車の先にトーテムポール的な何かが見える。

 これか――ふむふむ。それにはシンプルに一言『31 LINE』と水色の文字が。


「31?」

「そ。北緯31度線やな。本土では最南端」

「ぉおー!!」


 やだ、ちょっとコレ、テンション上がるわー!!(≧∀≦)


「つ、遂に我々は秘境に足を踏み入れたっ!!」

「どこの探検隊じゃw 秘境言うなしwww」

「でもでも、これって小学校の頃に子午線に行って日本の中心でアイを叫んだ時以来の感動っ!!」

「子午線上で愛を叫ぶJSとか……シュールにも程があるわwww なら、ここでも何か叫ぶんかね?」

「い、いえ、もうオトナですし!?」

「そうか、んじゃ出発――」

「――あーっ、タンマ、やっぱり私に1分だけ時間を下さいシルヴプレ!!」


 そうして、1分どころかたっぷり5分ほど自撮り棒を持ったまま叫びまくった私は、彼の生温かいジト眼と共に再び車中の人となったのだった。

 ――なんか私、ポンコツ化が進行してない!?


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


「しよるなぁ」

「何ですと!?」

 し、しまった、また思考が口に出てたのか…orz

 本日で何度目かの煩悶に襲われる私を尻目に、車は駐車場らしき所に駐まった。

 駐車場自体が公園のようになっていて、売店らしき物もある。他にも車がぽつぽつ駐まっていた。

 敷地のド真ん中に巨大なガジュマルっぽい樹が生えており、こちらには石造りの本格的なモニュメントがある。

 ここで撮影するのかな? でもさっきから曇ってて遠くは殆ど見えないな。


「さて、ここからは暫く歩きになるが――疲れとるやろうし、車に残っても――」

「――行きます!! 次は何処ですかっ!?」

 やや喰い気味に言ったのは、何も知らない所に独り残されるのは流石に心許なかったからで。

「お、おぅ。まぁ、疲れとらんなら良いが――」

 あ、と気付いたように続ける。

花摘みおトイレに行くんなら今のうちに行っとき。ここから先はホントに何も無いけんね。俺はそこらの藪でも出来るけど――」

 な、な、何言い出すんだ唐突にコイツはーっ!!

「睨むな睨むな。前に来たときにホントにそれで難儀したんじゃから」

「うぅ……ご親切にどうも……」

 結局、私は粛々と花摘みおトイレを済ませると……あぁ、本日のもうお嫁に行けないpart2。行かんけど……駐車場の先に見える遊歩道へと足を踏み出した。


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


 ざく、ざく、ざく。

 かれこれ10分以上、遊歩道を踏みしめる靴音だけが響く。両脇は南国ムードたっぷりにガジュマルの樹が生い茂っている。ここ、マジで本土か!?

 遠くでは波頭が砕ける音がしており、その度に脳内で某大手映画会社の三角マークがズームアップするが、それは私だけの秘密だ。

 綺麗に舗装されているとは言え、流石に重たそうなカメラバッグを担いだ彼は口数が少なめだ。安心する反面、物足りないのは何故だろう。


「――ホントに大丈夫か?」

「そっちこそ。重くないですか? 何なら暫く持ちますよ?」

「気持ちだけ頂いとくわ。コレは俺の仕事やしな」

「はぁ。――それはそうと、何処に向かってるんですか? まさか、岬の先っちょまで?」

「いや、時間的に無理やな。そもそも管轄外になるし――お、着いた」

 管轄外、という物言いに引っ掛かりを覚えつつも、彼が指し示す方向に眼を遣る。

 相変わらず続いている遊歩道脇のガジュマルに切れ目があり、道らしきものが見える。え、この先なの!?

 ――と思ってその先に眼を凝らすと、

「――おぉ!?」

 密林の奥には、目にも鮮やかな朱塗りの鳥居が見えた。


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


『黒騎士さんの近況報告:20**年12月14日


 只今何故か本土最南端なう。ちょっと路線を間違えただけなのに、どうしてこーなった(´・ω・`)』

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