04 - ありがちな観光案内
「――何処へ行く……かは、まぁ、着いてのお楽しみって事で?」
一頻り笑って笑い疲れたのか、それからずーっと前だけ見ながら彼は答えた。
「――ていうか、なんか、段々と
「あんたも大概失礼やねw ここらはどこもこんなもんじゃ。ま、過疎化って奴でな――」
確かに行けども行けども田んぼや畑や山ばかりで――時折ぽつん、ぽつんと人家や小さな商店?らしきものが点在するだけ。
ウチの実家も言う程は都会では無かったけど、流石にこういう風景を見ると遠くに来たんだなーという実感が湧く。
そうして暫く田んぼ沿いに点在する人家を横目に川沿いの道を走っていくと――。
「――え!? な、何コレ!?」
珍百景、来ましたー!!
田んぼのやや奥まった先、後ろに緑の山を背負ってそれは目に飛び込んで来た。
目に飛び込んで来たそれ――神社の鳥居――は、まぁ特段珍しい物ではなく、ごくオーソドックスな朱塗り。天辺を構成する笠木が黒でその下を支える島木が白のツートーンなのは珍しいけど。
ただ、何というか私の眼だか脳だかをバグらせているのは、それが横並びに二つ建っていることで――。
これはアレか、所謂立体のステレオ写真的なアレか、裸眼視で立体に見えたりするのか!?
「――そういう発想をする人は初めて見たわ……」
先程の思考の最後の部分が思わず口に出てしまっていたようで、横の彼が呆れ気味に呟く。ひ、引かれてしまった……。
「ま、何なら試しに写真撮ってやってみたらどうね? 案外イケるかも知れんな」
お、おほほ。ま、まぁ"地域おこし応援隊員"としては斬新な発想も求められてますからねっ!!
「で、こっちは暫く撮影しとるんで、その間は好きにしとってえぇよ。――ほい」
車を鳥居の近くの空き地に駐めて、後部座席の保温ポーチからペットボトルを渡される。おー、暖かい。
「それで良かったかね? カフェインは相性もあるからな」
あ、焙じ茶だ。ほう、意外と(失礼)気が利く系だなこの人。
そう言いつつ、自分は無糖紅茶をポケットに突っ込み、何やら重そうなバッグを後部座席から担ぎ出した。
「あ、これ大好きなんで、ありがとうございます。――撮影って、カメラマンさんですか?」
「違う違う、ちょっと頼まれただけで、写真は只の趣味」
「頼まれた――?」
「あぁ。市役所の知り合いからな、地域おこし関係の資料に要るからとかナントカ」
ぎくっ!!Σ(゚Д゚;)
あ、あはは……それ完全に私案件っぽいわ……(^^;
「あ、あのー……」
「ん?」
「私も……ご一緒して構いませんか……?」
「まぁ、構わんけど……そんな面白いもんでもないよ?」
そして二人並んで鳥居の方へ歩いて行く。
¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †
「あー、入るときは左からな。そいで出るときは右」
「はーい」
まず鳥居の前で一礼してスマホを取り出す。うん、これマジでステレオ写真にしか見えんわ。
私の横で深々と一礼した彼もバッグからカメラを取り出して撮っている。あれ、意外と可愛い一眼だな。
すると、それを仕舞い、今度は何やら古めかしいカメラを取り出した。うぉ、これ実家の祖父が使ってたのと似てるわ。
なんかレンズの周りをくりくりと小刻みに回してシャッターを押したと思ったら右肩のレバーをぐい、と親指で横に捻る。
見事に熟れた手つきをぼーっと見ていたら、バレたw
「――なんか珍しいかね?」
「いや、何て言うか――古そうなカメラだなーって」
「元々親父が使ってた奴だしなぁ。40年ばかし前のらしいけど」
「40年!! だ、大丈夫なんですか、それ。電池とか」
「まぁ電池ったって露出計のボタン電池だけやし、あとは全部手動だから」
おぅ、AFも無いのか。凄いな昔の機械。
¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †
再び一礼して鳥居を潜り、本殿で礼拝を済ませる。
さっきから感じていたのだが、この人、礼拝の挙措動作が見惚れるくらいに完璧だ。随分と慣れてるなー。
それにしてもやっぱり神社は、良い。
この護られているような感じ。今までのモヤモヤが浄化されていくようだ。
こうなると御朱印帳でも持ってくれば良かったかな。一冊調達しとくか。
「そう言えば、この鳥居ってどうして二つあるんですか? それも横並びに」
「ここの総社――諏訪大社、知ってるかね? アレが元々こういう形式だったらしいな」
「でも、諏訪さんは一つですよね?」
「本来は上社と下社の鳥居が独立してたらしいが――後々に社も統合されて一つになって、鳥居も一つになったらしい」
「え、でもここのお社――」
「あぁ、一つやな。鳥居だけが形式的に残ったようやね。県内でも古いところは幾つかこの形式が残ってるらしいが」
「へぇ……」
「今となっちゃそういうのもすっかり忘れ去られとるから、若い人らには夫婦鳥居とかナントカ、縁結びに御利益が、とか言われとるようやけど」
「――!!」
一瞬、心の隅がチクリとする。
「ま、御利益も世に連れ人に連れ、ってことやろうな」
私の密かな葛藤に気付いたのかどうか、彼はふと遠くを見るような目をした。
¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †
『近況報告に返信がありました:20**年12月14日
[From] ほくとななを
引っ越しお疲れ様でしたー。心機一転、落ち着かれたら続きをよろ。気長に待ちますよ~!!』
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