03 - ありがちな田園風景

 ぐいっと切ったハンドルを手の中で滑らせる度に角が当たり、その感触に微かな苛立ちを覚える。


 最近の車は膝上空間の確保とやらでハンドルの下辺がスパッと水平に切り取られたような造形になっているのが多い。

 確かに運転席に座っているならそれは有効な手法ではあろう。が――。


を最初に考えた奴も未だに採用してる奴も絶対、好きで車の運転したこと無いんじゃないかなぁ」


 彼は独りごちてアクセルを踏み込む。微かなモーター音を立ててするすると車が滑り出した。


「――ん?」


 その眼に一瞬、バス停で佇む人影が映る。見慣れない感じがした。観光客だろうか? しかしまだ年末年始の連休には早いが――?

 そんな疑問を覚える間もあらばこそ、淡い黄色のブラウスとそれに似つかわしくない鮮やかな赤のフリジア帽は後方に流れ去っていった。


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


 ――おかしい。


 かれこれ2時間は待っているが、バスが全くやって来ない。


 傷心の旅sentimental journeyの終着駅、この県最大のターミナル駅らしい通称"中央駅"。

 てっきりそこで到着かと思いきや、観光案内でよくよく訊くとなんと!!私の目的地はそっから直行バスで更に2時間なんですよ奥さん!!って誰に向かって言ってるんだ私!!

 そんなこんなで、"中央駅"で欠伸を噛み殺しながら直行バスに乗り込んだ私は、なんというか、ものの見事に寝過ごしてしまい、終着地の手前で慌てて降りたは良かったが、ここ、周りになーんにも無い所なのだ、これが(´・ω・`)……なんか遠くで牛がのんびり啼いてるし。

 ここ何処なんだろう……人に訊こうにもそもそも人が通らないし。かと言って日曜日で市役所はお休み。従ってメールの番号に電話をしても駄目だろう。

 悪運もここまで続くともう笑うしかない。遠くでのんびりと啼く牛の声をぼーっと聴いているうちに、だんだんと……眠く……(˘ω˘)スヤァ……。


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


「――あれ?」


 あの色は。

 おそらくは往路でちらっと見かけた人か。

 それはいいとしても――何やってんだ、あれは!?


 バス停手前の農道に車を横付けにすると、彼は足早にバス停のベンチに横たわる黄色のブラウスに向かって行った。


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


「――おい、――おい、大丈夫かあんた!?」

「――ふぇ!? くぁwせdrftgyふじこlp!?」


 うわー、変な声出たー!!

 ――じゃ、なくてっ!!


「――んなっ!? ななななな何ですか貴方っ!?」

「そりゃこっちの台詞じゃ」

「はぁっ!?」

「なんぼ小春日和ったって、流石に外で寝たら風邪引くぞ」

「――へ!? 私、寝て……た……?」

「そりゃもー気持ちよさそーにw」


 む。今ちょっと笑いやがったな(-_-#

 いや、それは兎も角。


 私は自分の現状を確認する。

 一向にやってこないバスを待ち呆けて、バス停のベンチで横になり、あまつさえ爆睡。――あ、やべ。ちょっと涎喰ってるわ。

 お気に入りのブラウスは皺くちゃ、帽子に至ってはベンチの下に転がっている始末(´・ω・`)


 結論。

 ―― 最 悪 だ 。

 見知らぬ男に道端での爆睡を見られるとは何たる失態。

 ブラックホールがあったら入りたぃぃぃーーーっっっ!!


 ――などと、恥辱の余り独り煩悶する私を珍獣を見るようなジト眼で見つつその見知らぬ彼は言う。


「――そもそも、こんなところで何しとってたんね? 家出――をするような歳でも無さそうだしなぁ」


 悪うござんしたね。家出するほど若くなくて。


「流石に具合が悪いってことは無さそうやな。――じゃ、昏くならんうちに早よウチに戻んなよ?」


 独り合点に頷いてあちらに見える赤い車へすたすたと戻る彼――の上着の裾をと掴んで私は言った。


「――あ、あの……ここ、何処なんでしょう?」


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


「――ぶわーっはっはっはっはっ!!」


 先程からかれこれ30分、彼の爆笑は止むことが無い。

 正確には、爆笑しては私に睨まれて静かになり、暫くすると堪えきれずにまた爆笑、これが現在7巡目である。

 うぅ、何なのこの羞恥プレイ(´・ω・`)。ここに着いてからこっち、全く良いところが無い。


「いやー、しかし」


 笑い過ぎて眼の端に浮かんだ涙を拭って言う彼。


「危なかったなアンタ、あのまま待っとったち、市内行きのバスはもう通らんかったしな」

「うぅ……その点に関しては感謝致します……」


 結局、今に至る失態を洗いざらい説明する破目になり、私が寝過ごしてあんな場所で降りてしまったこともしっかりとバレてしまったのだった。

 と、都会育ちのクールビューティーのイメージが……(注:本人の主観です)。


「そもそも、そげん慌てんでも、もう1便待てば終点が市内になっとる方のルートが出たろうに」

「そんなの判るわけ無いでしょー!! 大体、私、こっち来たの生まれて初めてなんですよー!!」

「それこそ案内窓口で訊けば良かったじゃろ」

「う゛……」

 ド正論。

「まぁ、とは言うものの――」

 前を見つつ彼は呟く。

「長い時間、大変やったね。――ようこそ、K-市へ」

 う。ドSの後にそう来ますか。ちょっとお父ちゃんみたいだなこの人。

 跳ね上がる心拍数を気にしつつ、私は先程からの疑問を口にする。


「ど、どうも――ところで、何処へ行くんですか?」


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


『黒騎士さんの近況報告:20**年12月14日


 ちょっと色々ありまして、引っ越しました。落ち着いたら連載中の作品は追って再開予定につき、待て続報!!

 あ、いや済みません調子こきました。お願いだから見捨てないで~!! 今ヘトヘトなんです~。・゚・(ノД`)・゚・。』

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