第21話 「樹の異能」
一度閉じたドアが再び開き、警官が次に見た光景は先程会った青年に手を引かれてもう1人出てきたところであった。
中性的な子で、うつむき加減で怯えているように見えてる事だろう。
実際は特に深い意味は無い。
陰キャは常に俯いてるという考えで紅がそれを実行しているだけだ。
「突然の訪問ですみません。お父さんは中にいるかな?」
その問いに小さく首を横に振る。
思わずギュッと手を握る。
「どこに出かけたか分かるかな?」
ギュッと目をつぶりもう一度首を横に振る。
ニヤケそうだ。
笑いをこらえるためにぐっと我慢したが肩が揺れるので樹の後ろへ。
本人にその気は無いが、第三者目線ては怯えて震えているように見えてる。
ちょっとだけ中を見せてねってことで警官と家の中へ行った時、ふと思い出す。
靴捨てたの忘れてた。
完全に忘れてた。
バレないようにゴミ箱の元へ行き、バッと靴を回収。
そっと廊下へ行き、靴箱の奥へ突っ込む。
2人の警官が1階部分を見て回ってもう1人は樹と2階へ。
廊下で耳をすましていると、なにやら短い言い争いの後に2人が何事も無かったかのように降りてきた。
「問題解決だな」
フラフラっと歩いていたかと思えば、2人と合流すると元のように行動し始める。
上に何も無かったと報告し、3人は樹と2、3言ほど話して帰ってた。
去っていった警官に安堵し、玄関に鍵をかけて振り返ると樹が携帯をこちらに向けて立っている姿が目に入り、ガっとレンズに指を押し当てる。
『盗撮とはいい度胸だ』
「減るもんじないだろー、レンズ割るなよ?」
マスクを取り前髪を上げてリビングに戻ると樹も戻ってくる。
コーヒーを淹れるからソファーに座っててもらい、キッチンへ行き作業を進めながら先程のことを思い返す。
樹と一緒にいた警察官、異能によって暗示をかけられたあの人。
どんな暗示かは知らないけど、こちらの不利になる発言はないだろうからまずは安心だろうか。
コーヒーメーカーが作動停止し、マグカップを二つ持ち樹の元へ。
『カフェオレしかなかったけどいい?』
「あぁ、ありがと」
向かいのソファーに座り、今後のことについて話を進めていく。
「警察に関しては知らぬ存ぜぬを通すとして、まずは父親が最優先だな」
『アレは地獄に行ってもらわないといけないから』
「んー、ちょうど朝一で死体処理の依頼が来たからそれ使うか?」
『そうだなぁ、それは死んだ状態で受け取るの?』
「処理はその場に行くから最初は生きてるはずだぞ」
『死んでると保存が大変だから、できれば生きてる状態がベストだけど』
昨日の仕事の影響だろう、食事に人間を使うという考えをぽろっと出している紅に違和感もなく了承して樹はどこかへ電話をかける。
「ちょっと待ってくれ、
電話をしていた樹が仕事名で呼んできたことに不思議に思いつつ視線を向ける。
「こっちに来て依頼をここでやるのはどうかって話なんだけど」
『依頼先は誰?』
「
『あのイカれた闇医者だったら別にこっちでもいいかな』
そこから何やら話をまとめて通話は終わり。
一時間ほどでここに来るらしい。
どうやら自分にいつまでも嫌味や嫌がらせしてくる相手に堪忍袋の緒が切れ、強硬手段に出ることにしたらしく今にいたるということだ。
ついでに依頼をお願いしたいという人の話も持ってくるみたい。不吉。
調理方法どうしようか?
でもきっと
そう考えを巡らせてると、ぎしりと隣に樹が座る。
どうしたのかと見上げれば、機嫌良く私の髪を一束取り指に絡めていじり始めた。
何がしたいのかよくわからないが、本人が楽しそうなのでほっといて私はこれからのことを頭の中であれこれ考えていく。
父親に関しては、自ら殺してくれと懇願するまでじわじわと削っていく予定。
はずみで殺してしまったら、まぁ仕方ない。
鈴:着いた!
LAINのグループメッセージが届いたので二人で玄関へ。
鍵を開けてドアを開けると、車から
例の子は後ろか?
なんとなくそちらに目を向けると、後部座席に裸の女が乗せられてる。
おそらく逃走防止のために衣服をはぎとられたのだろう。
ちらりと目を向けた樹も理解したようで、気の毒なものを見るような表情をしてた。
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