ぼく生まれたよ!

@KAZUHIRO2021

第1話

どういう進化をしてそうなったのかはわからぬが、その星の男女は年に二週間しか恋愛をしないのである。

その星は地球から見える一番遠い百三十二億光年の彼方にあるので、多分地球人がどんなに進化してもたどり着くことはできない場所にある。

地球とほぼ同じ比率の窒素と酸素の空気があり、人間に非常によく似た人類に加えて、植物、昆虫、動物も存在している。

地球では桜は春に二週間しか咲かないが、他の植物も一年中花を咲かせている訳ではなく、年に一度だけ、昆虫も動物も一年に一度だけ繁殖時期を迎える。

よくよく考えてみると、地球では人間だけが一年中生殖をしているように見える。これは地球だけの特殊事情なのかもしれない。

地球上の人類は当たり前と思っているが、宇宙全体では子孫をつくる活動は限られた時期に行うのが普通と考えるのが本当は自然なのかもしれない。地球でも人類が生きるのが精いっぱいであったときは同じで、生活が豊かになった結果、今の状況となったのかもしれない。

この星には地球には当たり前にある、恋愛ドラマ、恋愛映画、それに不可欠なファッションを支えるデザイナー、ヘアデザイナーは非常に少なく、男女に関した犯罪もない。

恋愛に使う時間の代わりに、科学技術、体を鍛えるスポーツ、音楽、美術、食文化が大きく進化している。男性は外に出て働き、女性では家で子育てや家事をするといった分担はなく、男女で均等な雇用機会が約束されている。


そして、一年に一度だけおとずれる恋愛ができる二週間の期間が始まる一週間前からこの星の人々の様子は一気に変わる。

結婚適齢期の男女は急にきれいな服を着て、町を闊歩しだす。年に一度のお祭りのようなものである。様々なイベントが企画され、男女の出会いの場が作られる。


この星の中心都市ガルシアの集合住宅にモロー家族が住んでいる。夫マキシム、妻ソフィーナ、長男五歳ミハイル、長女三歳アナスタシアの四人家族である。


マキシムとソフィーナも年に一度のニ週間の出会いの場で知り合い結婚した。

この星の服装は非常にシンプルで、かつ男女の区別がない。マキシムもソフィーナもグレーのほぼ同じデザインの服をきている。ミハイルは鮮やかな青、アナスタシアはピンクの服を着ていて、子供服は地球とあまりかわらない。



この星の人間にも口はあるが、食事をする為だけのものであり、頭から発する高周波で意思疎通を図っている。口を動かして話をする必要がない。地球ではしゃべることにより感染症が広がった歴史があるが、飛沫感染はない。この星では進化の過程で口を使ってしゃべる必要がなくなってもう何万年も経過している。


 夫マキシム・モローの仕事は学校の教師、妻ソフィーナはジムのトレーナーである。

 この星の男女は完全に対等な関係にある。

「ソフィーナ、今日は例の問題児の親との面談があるんだが、何かアドバイスはあるかい?」

マキシムが頭からでる高周波でソフィーアに話しかける。

「この前、あなたから聞いたところでは、その子は同じクラスの女の子に毎日ちょっかいを出しているそうだけど、昔の遺伝子が残っているのかもしれないので、ご両親自身もそうであったか聞いてみたらどうかしら?

「アドバイスありがとう、そうだね。まずは遺伝子によるものか、突然変異かということだね」

「そう、私たちの祖先は無駄な恋愛感情を一年中もつことにより、男女間のいざこざを 避ける為に遺伝子操作により、恋愛と生殖活動は年二週間だけとする様、人類を進化させた訳だけど、まだ先祖返りということがあるみたいよ」

「私たちも、子供を作るとしても年に一回だけで、それ以外はお互い、セックスレスで もなんともないし、あなたが他の若い女の子に気をとられて、私がいらいらすることなく、あなたは仕事に専念できるし、よいことだけよね」

「それでは出かけてくるね」

「いってらっしゃい」

ソフィーナは夫マキシムの後、子供たちを見送り、明日のジムでのレッスンで教えるポーズの練習を始める。


午後一時、マキシムが帰宅する。この星では男女のことで気が散ることがないので、仕事の効率が非常によく、勤務時間は午前九時から十二時までで、多くの方が午前中で仕事を終え、昼食は家で家族とゆっくり取るのは当たり前になっている。機械的な作業はほとんどロボットとAIがこなしており、人類はロボットやAIがカバーできない創造的なことに集中できている。

「マキシム、例の問題児のご両親との面談はどうだった?」

「やはり、遺伝子のようだよ。お父さんも小さいとき、はやり女の子にちょっかいを

出していたようだよ」

「それで今後、どうやって解決するかの話はできたの?」

「例の男子校へ転校してもらうことで考えているんだ」

「それがいいわね。女の子の同級生がいなければ、ちょっかいの出しようもないわよね」


春のニ週間以外は男女間で恋愛感情を抱くことはない。年に一度の恋愛でも子孫を残すことで、命はずっとつながれてきた。しかし、このシステムは実は大きな問題をかかえていた。それは一度に同じ時期に子供が生まれるので、出産シーズンになると病院が一杯になってしまうのである。この星も地球と同じく一年は十二カ月であるが、春のニ週間で夫婦の子供が生まれるのが毎年二月に集中していた。

そして、交際期間があまりにも短いので、ミスマッチによる離婚が多発。それにより、片親の子供が非常に多くなっていた。しかし、完全な男女平等が実現していて、シングルマザーも男性と同じお給料をもらっていて、かりに失業しても子供のある家庭は手厚く政府が生活を保証する仕組みが機能している。


二十年後にマキシムの息子ミハイルは成人して科学者となり、宇宙探索を行う宇宙飛行士となった。

この星の非常に高い技術は百三十二億光年の彼方にある地球という星に同じ環境があり、非常に似た人類がいることを発見した。

 ミハイルは地球を探索するメンバーの三人の一人として選ばれる。そして高速を超えるスピードで星の間を移動する地球上ではSFでワープと呼ばれていたまだ実現していない航行技術により、2022年の地球にたどりついた。

「見ろよ、この星のやつらは俺たちとほとんど姿をしているぞ」

 三人は地球人があまりにも自分たちに似ていることを知り、驚いた。

「しかし、皆ずいぶん着飾っているな」

三人は地球の調査が終わり次第、戻る予定であった。

「ミハイル、お前は帰らないのか?」

「おれはもうすこし、日本という国を調査してみることにするよ」


ミハイルは日本の調査にむかう。

京都で一人の日本人女性霧島かおりと出会い、彼女が自分の星の女性とあまりにも違う事に驚き、同時にかおりに惹かれてゆく。

ミハイルはかおりに聞く。

「何故、かおりは毎日そんなにおしゃれをしているの?なぜ、毎日そんなにお化粧に時間をかけるの?」

「だって、どこで、いつ、すてきな男性に会うかわからないじゃない?」

「なぜ、かおりは毎晩、男女の恋愛ドラマをみているの?なぜ、毎日男性のことを考えているの?」

 かおりは答えない。

 ミハイルはあまりにも自分の星の女性と違うかおりに憧れ、この星からきた人間としてはありえないことだが、決まった二週間ではなく、毎日かおりへ恋心を抱くようになる。

かおりも一風かわったミハイルが気になっている。

「かおり、僕は京都にもう少し残ることにするよ」

そして、ミハイルはかおりと付き合いはじめる。ほどなくして、かおりはミハイルの子供を妊娠する。

 十カ月後にかおりは元気な男の子を出産する。

「どうして、この赤ちゃんまだ泣かないんだ」

生まれても全く泣かないので、医師と看護婦をひどく心配させた。

ほどなくして、その男の子はかおりの頭に高周波でかたりかけてきた。

「僕、生まれたよ!」


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