のりこサン
柴田 恭太朗
わしとダチとのチャットにて
わし:今日な、撮りためた大河ドラマを一気見してたんよ。
ダチ:うん。
わし:そしたらさ、のりこサンが出てきたんよ。
ダチ:おぅ。
わし:わし、ビックリしたんよ。
ダチ:そうか? 「半沢」に出たあたりから絶賛ブレイク中だからな。
わし:古参ファンのわしが知らぬ間に売れてしまうとは。
ダチ:なにか問題でも?
わし:ない。
ダチ:よし。
わし:知ってた? のりこサンって双子なんよ。
ダチ:へぇ、そうなんだ。
わし:しかも一卵性双生児。
ダチ:ほお、さすがは古参ファン。くわしいな。
わし:さっきWikiを見たら書いてあった。
ダチ:なんだニワカ知識か。ホントにファンか?
わし:クリソツなんだって。のりこサンと姉。
ダチ:誤魔化したな。なんだクリソツって。昭和のギョーカイ用語か。
わし:まーまー聞きたまへよ。わし素晴らしいことを思いついたのだ。
ダチ:なに?
わし:まず、のりこサンを右に配置するじゃん? で、なにかしゃべってもらう。
ダチ:ふむ
わし:で、お姉さんを左に配置するじゃん。
ダチ:ふむ
わし:で、同じことをしゃべってもらう。すると何が起こる?
ダチ:まったくわからん。
わし:ステレオ放送(^o^)/♪♪\(^o^)
ダチ:それ嬉しいか? つーか同じことしゃべったら、それモノラルじゃね?
わし:一卵性双生児だけが実現できるナチュラル立体音声
わし:たまらん。(^o^)/♪♪♪♪\(^o^)
ダチ:はいはい(呆れ)。彼女のどこがいいのか語ってみなさい。
わし:そうさなぁ、箇条書きにしてみると……
わし:むき立ての卵みたいにツルっとした、うりざね顔
わし:小さな目。一重に見えて、実は奥二重でまつ毛が短い
わし:平安顔。しかも平安時代のモブっぽい顔
わし:ベテランなのに素人っぽい演技(絶対わざとやってる)
わし:ふとした瞬間に見せる中性的なエロス
わし:たまらん。
ダチ:ほぼ褒めてないな。あのタイプの女性が好みなのか?
わし:いや。そういうわけでもない。
ダチ:じゃあなんで?
わし:パンダっているじゃん。見た目も動作もカワイイじゃん。
ダチ:まあな。
わし:ずっと眺めていても飽きないじゃん。
ダチ:ああ。
わし:でもどんなにパンダが好きでも、お付き合いしたいとは思わないじゃん。
ダチ:そりゃそうだ。
わし:それ。
ダチ:それか。
わし:そう、それ。のりこサンは遠きにありて思ふもの。
ダチ:ふるさと!? つーか、そろそろ論旨を明確にせよ。
わし:まあ待て。わしな某所で芸能人に会うことがある。
ダチ:また煙に巻こうとしてるな? 某所ってどこさ?
わし:言えないから某所なんよ。
ダチ:はいはい。訊いた俺がバカでした。
わし:芸能人ってオーラあるじゃん。
ダチ:噂には聞くけど知らん。
わし:さるお方のオーラがすごいんよ。
ダチ:目に見えるとか?
わし:見えるどころか、もっとスゴイ。某所の通路を歩いているとするじゃん?
ダチ:うむ。
わし:通路の角を曲がる前に「あ……この先にいらっしゃる」ってわかるんよ。
ダチ:すごいな、それ誰?
わし:ほれ、黄色い
ダチ:我妻善逸?
わし:ちゃう。リアル人物。おばさまとも、おじさまとも形容しがたいお方。
ダチ:あー! シャンソン歌手の。確かに、あのお方はオーラが強そうだ。
わし:ところが、のりこサンはだな。
ダチ:うむ。
わし:昼に通路ですれ違って、一通り仕事が終わって、駅までテクテク歩いて、乗り込んだ電車のドアが背中の後ろでプシューッと閉まったあたりで、アレ、今のもしかして、のりこサン? て思うぐらいオーラが希薄なんよ。
ダチ:それ
わし:いや、褒めてる。
ダチ:そうは聞こえない。
わし:そのオーラの希薄な「のりこサン」キャラを小説に取り込みたいんよ。
ダチ:ようやく本題に入ったっぽいな。
わし:考えてもみなされ。主人公を喰わないキャラなのに、不思議な存在感がある。
ダチ:そのキャラにどんな意味が。
わし:ズラリと居並ぶキャラの中に浮かび上がる人物描写の立体感。
ダチ:それ単純に主役・脇役・モブでよくね?
わし:ダメ。存在が希薄なのに、なぜか爪痕を残す読後感がほしい。
ダチ:それって、力入れるべきところを間違ってる。絶対。
わし:いろいろ試してはいる。うまくいかないけど。
ダチ:実践中かよ。実はもう小説の中に登場してたりして?
わし:フフ……。
ダチ:なんだ気味悪い。
わし:フフフ……。
ダチ:え? まさか。
わし:お前はもう「のりこサン」を読んでいる。
ダチ:なにそのセリフ。世紀末救世主伝説みたいなヤツ。
わし:最近、頬にお茶漬け海苔がついた女性の話読まなかった?
ダチ:あ……。
わし:フフフ、気がついたようだね明智くん。あれが「のりこサン」なんよ。
ダチ:そんなの分かるかよ!
わし:わしの野望はね、世界中の小説にのりこサンを登場させることなんよ。
ダチ:無茶な野望きたー。
わし:そもそも「むき立てタマゴ」と「ツルツルほっぺ」は、のりこサンの
ダチ:枕詞ときたか。
わし:加えて「白い肌」とか「滑らかな頬」ものりこサンの枕詞だと仮定しよう。
ダチ:仮定もきたか。
わし:枕詞がでたら、それは登場人物がのりこサンである暗喩なんよ。
ダチ:でたな、屁理屈の三段跳び。
わし:すると、あ~ら不思議、村上春樹も、三島由紀夫も、太宰治も、泉鏡花も、ドストエフスキーも、ヘミングウェイも、もう世界中のありとあらゆる文豪、小説家という小説家が、のりこサンの話しか書いてないんよ。
ダチ:待て。
わし:これ大変な発見だと思わん?
ダチ:ちょっと待て。
わし:もう世界中の小説は、だいたいのりこサンのお話なんよ。
ダチ:いいから待て。
わし:わしの野望はあっさり達成しちゃったわけよ。
ダチ:人物描写の立体感はどこいった?
わし:いい質問やね。そこで登場するのが、のりこ姉っちゅーわけよ。
ダチ:でたな、のりこツインズ。
わし:たちまち生まれる(^o^)/♪立体感♪\(^o^)
ダチ:もうええわ!
(^o^)/♪お後がよろしいようで♪\(^o^)
のりこサン 柴田 恭太朗 @sofia_2020
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