06_ヤミヤミ
「へぇ……あなた、春野一花っていうんだ。私は、
今野は、陽気な声でそう言うと右手を前に出した。春野は、彼女の手を優しく握ると、言った。
「こちらこそよろしく。私をあの牢屋から逃してくれてありがとう」
春野は、同い年くらいの今野に、早くも心を開いていた。
「私の力で、あなたの分身を作ったから、少しは時間が稼がると思うわ」
今野は、
薄暗く狭苦しい廊下を二人は歩き出す。換気口を流れる不気味な音が、響き渡っている。
「そんなことができるなんて。魔法使いみたい」
春野は、今野の持つ不思議な力に心惹かれた。夢物語だと思っていた魔法のような力が実在している。その事実に、彼女は心踊らされずにはいられなかった。
「そうかもね。私も初めて影力を見たときは、同じような感想を抱いたわ」
今野は、影隠師と出会い、影の力を目の当たりにした時のことを思い出し答えた。
「気を緩めるな!まだ、敵の本拠地の中だ。敵は、数えきれないほどいる。気づかれれば、一巻の終わりだと思え」
春野と今野が話していると、横から倉内の声がした。
「このうるさい人が、うちの影隠師のリーダー倉内剣山よ」
今野は、小さな声で春野の耳に向かって言った。
「ええ……
春野が、小声で今野に返事を返した。
「おい、誰がうるさい人だ!しっかり聞こえてるぞ、今野」
倉内は、ふざけるのはやめろと言わんばかりの顔を今野に向ける。
「この先に、
「何で急に俺に対してはそんな片言なんだよ!まあ、いい。この先にある扉に入れば、この
β層に、γ層……。この人たちは、一体、何を言っているの。
春野は、聞き馴染みのない言葉に頭がついて行かなかった。自分が今、どこにいるかすら分からない状況だ。
「私達が何を言っているのかわからないという顔ね。教えてあげる。ここは、影の世界なの。アンブラと呼ばれているわ」
「影の世界アンブラ……」
春野は、この時、自分が元いた世界ではない異世界に、来ていることを理解した。
「ええ、アンブラは、三つの階層に分かれているの。下の階層から、
「ということは、私達は一番上の階層にいるということ」
「その通り。そして、影の世界と人間界を繋ぐ光の道を作れるのは、β層だけなの」
今野が、話していると、倉内が言った。
「ああ、α層とγ層だと力に
敵の気配をいち早く察知した倉内が叫んだ。
ゴオオオオオオオオ。
直後、何か異質なものが蠢く音が、響き渡り、即座に、春野たちは、後ろを振り返った。
「何なの、あれ。闇が迫ってきてる」
春野に視界に移ったのは、奥の方から闇が凄まじい速度で迫ってくる様子だった。それを目にした瞬間、春野は、あの闇に飲まれてしまったら最後、漆黒の闇から抜け出せないのではないかと直感した。
「あれはヤミヤミ。あの闇に飲まれれば、漆黒の闇に永遠に閉じ込められると言われているわ」
今野は、ヤミヤミの蠢く様子を観察しながら、冷静な口調で言った。
「とにかく、飲み込まれる前に全速力で扉までかけるぞ!」
倉内の叫びと共に、春野たちは先にあるという扉に向かって駆け出した。細長い廊下を、3人の走る音が響き渡り、それをヤミヤミの蠢く音が踏み潰していく。
春野は、とにかく、必死に走った。心臓は狂ったように鼓動し、血液を全身へと運ぶ。息は乱れ、呼吸が苦しくなる。
あれに飲まれれば、死ぬよりも辛い目にあう。
彼女に死よりも恐ろしい恐怖がつき
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます