05_地下牢獄

 ここは一体、どこ?

 

 私は、黒瀬くんと花畑にいたはずなのに……。


 春野は、地下の牢獄ろうごくに囚われていた。頑丈がんじょうな柵が設けられており、自力で外に出ることは難しい。


「周りには、誰もいないみたい。どうにかして、ここから出る方法を考えないと」


 辺りを見渡したところ、誰の姿もなかったが、どこからか声がした。


「ここから出ようなんて考えないことだ」


 声はするが、誰かの姿はない。春野は、自分に話しかける声が、どこから聞こえて来るのかすぐには分からなかった。


「だれ?どこにいるの」


 春野が問いかけるも、話しかけてくる人物は、答えを焦らす。


「どこにいるか当ててみなよ」


 春野は、声がどの方向から聞こえるか意識していた。


 声は、下から聞こえた。


 咄嗟とっさに下の方を見てみると、柵の向こう側の石畳に影がうごめいていた。


「影……」


 奇妙な影の蠢きを見て、春野はつぶやいた。


「あれ、案外、早く俺の場所がバレちまったな」


 そんな声がしたかと思うと、蠢いていた影が、上の方に伸びていき、人が姿を現す。


「な、なに!?突然、影が動くなんて」


 春野は、想定外の展開に驚き、腰を抜かしそうになる。


「いいね、その反応。俺は、人の恐怖するところを見るのが好きなんだ」

 

 影から現れた人物は、春野を見下ろしながら言った。黒い服装を着た、細身の男だ。


「あなたは、何者?」


 春野の問いかけに、男はニヤリと笑う。


「俺は、この牢屋の看守だ。今からお前を選定の儀に連れて行く」


 春野は、聞き慣れない言葉に動揺する。


「選定の儀……一体、何をする気なの」


「行けばわかる。大人しくすることだ。できるだけ長く生きるためにな」


 そう言うと、看守は、影で銃を作り出し、春野に銃口を向けた。


 銃口を向けられた春野は、心臓が止まりそうになった。頭の中が、死の恐怖で染まってしまわないように、必死に正気を保つ。


「逆らえば、殺すということね」


 春野は、問いかけると看守は答えた。


「もちろん」


 看守は、そう言うと、持っている銃を瞬時に構えて引き金を引いた。


 地下牢の静けさに、命を穿うがつ銃声が響く。 


「うっ!?」


 命が絶たれた声がする。春野の胸に、看守の放った漆黒の銃弾が貫く。春野は、信じられないという表情を浮かべ、地面に倒れた。


 すると、直後、春野の身体は、影となって床に溶けていく。


 その様子を見て、看守はため息をつくと言った。


「やはり、そうか。やられたな。牢屋にいた女性は、影で作られた偽物。彼女は、すでに地下牢から抜け出している。それも影力を持った協力者と一緒に……」


 ーーー

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