多重人格の嫁(仮)がどの人格でも可愛い

白悟那美 破捨多

第1話「俺の嫁(仮)は多重人格で可愛い」

唐突だが、俺の未来の嫁は可愛い。

何がって、存在そのものが可愛いのである。

彼女は俺の許嫁であり、幼い頃からずっと

一緒に育ってきた仲の良い少女だ。

俺と彼女は今年で高校2年生になり、来年には俺も結婚できる年になる。彼女を2年もまたせてしまう事は申し訳ないと思う。

そんな来年を夢に見て、この俺柳田やなぎだ 紅葉くれはは、桜が舞う通学路で許嫁を待っていた。



「おーい、紅葉ー!」


彼女を待つ俺に元気の良い声が響き渡り、俺はその声のする方へ振り返ると彼女も嬉しさのあまりか、俺の腕の中へ飛び込んできた。


「おいおい、あぶねぇだろ」

「えへへー、ごめんね。でも、紅葉の顔見るとつい嬉しくなっちゃって」

そう言って満面の笑みを浮かべる彼女こそが

俺の許嫁で未来の嫁である一我ひとが香羽琉かわるだ。

香羽琉とは5歳の時にあってからもう11年の付き合いになる。許嫁になったのは、お互いの父親同士の約束だったらしい。


母親達も納得しており、俺たちは長い間一緒に成長し、今では両思いのカップルとして、学校でも割と有名である。


しかも、香羽琉は成績優秀、スポーツ万能で誰にでも親切でそして何より可愛い。

学校や近所で知らない人は居ない程の有名人だ。

でも、そんな有名人である彼女の本人すら知らない一面を俺は知っている。


「やっべ!ボール全然違う所に飛んだぞ!」

「そこの2人!危ないぞ、避けろー!」

「え?」


急に声をかけられた俺たちのいる方向には、ボールがすごいスピードで迫ってきていた。


「ちょっ、流石にこれは避けれねぇ!」

俺はとにかく香羽琉を守ろうとボールの方に背を向け、強く香羽琉を包み込む。

だが、ボールは俺の近くまで来て、急にパシッという音を立てて止まったのだ。

「ありがとう紅葉。守ってくれて、でも大丈夫だよ。ちゃんとボールは取ったからさ」

「いや、取ったってお前、まさか素手でか?」

「うん、そうだよ」

「かなりスピード出てたし、素手で取ったんじゃ大丈夫なわけないだろ」

「あははっ、大袈裟だな。それに、僕からすれば、手より大事な未来の旦那さんが無事ならそれでいいよ」

そう言って優しい笑顔で香羽琉は俺に微笑む

「でも、やっぱりちょっと痛いな。だから、後で手当して欲しいな...ダメ?」

香羽琉はボールを取った手のひらをさすりながら俺にそうお願いしてくる。てか今のダメ?は可愛すぎて反則だろ。


「あぁ、俺も未来の奥さんが助けてくれたのに恩返しの1つも出来ないなんて嫌だからな」

俺達がそんなやり取りをしていると、ボールを飛ばしたであろう少年たちがやってきて、

「すみません。僕たちのせいで怪我をしてしまったようで、医療費でもなんでもはらいますから、僕たちに責任を取らせてください」

と泣きながらすごい気迫で謝りに来た。

正直、香羽琉の怪我も酷いものでは無いし、幸い他に怪我人もいないので、俺達は別に怒ってもないし、謝ってくれたからそれでいいのだが、少年たちの気迫が強すぎて俺は何も言えない状況になっていた。


だが、香羽琉は少年たちに落ち着いた表情で語りかけた。

「別に、謝ってくれたならそれでいい。私の怪我も大したものではないし、他に怪我人はいなかった。それに、ちゃんと謝りに来るという行動は勇気がいるし、そのまま逃げてしまう人間の方が多い、でも君たちは謝りに来てくれた。それだけで、私は嬉しいよ」

そう言って、香羽琉は泣いている少年の涙をハンカチで拭き、ボールを少年の手に握らせた。いや、怪我した元凶に対してこんなにクールに対応出来るとかカッコよすぎだろ!


少年たちはそのまま、頭を下げてお礼を言って公園の方へと戻って行った。

そして、俺と香羽琉が少年たちを見送り時計を見ると、もうすぐ学校が始まる時間になっていた。


「やばい、香羽琉このままじゃ遅刻しちまうぞ、急いで学校に行かねぇと」

そう言って俺は香羽琉の手を繋いで、学校へと走ろうとしたその瞬間


「ちょっと、触んないでよね」

香羽琉にそう言われ手を弾かれてしまった。

「わ、悪い。遅刻しそうでつい」

俺は香羽琉に謝って、学校へ向かおうとすると、香羽琉がもう片方の手を差し出して、

「勘違いしないでよね!こっちの手は怪我してて痛かったから繋げないだけで、手を繋ぐのは別にいいから、さっさと繋ぎなさいよ」

と言ってきた。これに関してはシンプルに可愛すぎか!


そう、他の人は知らない彼女の秘密、それは

彼女が今日会ってから、4回も人格が変わっている事。最初に抱きついて来た時、ボールを取った時、少年にボールを返す時、そして今、俺が手を繋ごうとした時、彼女は人格が変わっている。そして、その人格のどれもがとてつもなく可愛いのである。


改めて言おう、俺の妻(仮)は多重人格者で可愛い。そんな可愛い彼女と俺は手を繋いで学校へと急ぐのだった。


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