多重人格の嫁(仮)がどの人格でも可愛い

白悟那美 破捨多

第1話「俺の嫁(仮)は多重人格で可愛い」

俺の未来の嫁は可愛い。


唐突な惚気話で大変申し訳ないのだが、どうか最後まで聞いて欲しい。


どの辺が可愛いかって、存在そのものがワールドクラスで可愛いのである。


彼女は俺の許嫁であり、幼い頃からずっと

一緒に育ってきた仲の良い女の子だ。


俺と彼女は今年で高校2年生になり、来年にはお互いが結婚できる年になる。


そんな来年を夢に見て、この俺柳田やなぎだ 紅葉くれはは、桜舞う通学路で一人許嫁を待っていた。



「おーい、紅葉ー!」


彼女を待つ俺の耳に元気の良い声が聞こえてきた。

俺が声のした方へ振り返ると、直後少女が俺の腕の中にものすごい勢いで飛び込んできた。


「おっまたせー」


そう言って少女は満面の笑みを浮かべた。


「おいおい、あぶねぇだろ」

「えへへー、ごめんね。紅葉の顔見るとつい嬉しくなっちゃって」


上目遣いでこちらを見上げている彼女こそが、俺の許嫁で未来の嫁である一我ひとが香羽琉かわるだ。


香羽琉と出会ったのは5歳の頃だったから、もう10年以上の付き合いになる。


許嫁になったのは、お互いの父親同士が小学生からの親友で、久々に酒を交わした席でした約束だったらしい。


母親達も納得しており、長い間、ただの幼馴染みとして過ごしてきた俺たちだが、両想いだと発覚してからは恋人同士だ。


しかも、香羽琉は成績優秀、スポーツ万能で誰にでも親切でそして何より可愛い。

学校や近所で知らない人は居ない程の有名人だ。



でも、そんな彼女本人すら知らない一面を俺は知っている。



「やっべ!ボール全然違う所に飛んだぞ!」

「そこの人!避けて!」


「え?」

声のする方に目を移すと、俺たちに向かって野球ボールが迫ってきていた。


(ちょっ、流石にこれは避けれねぇ!)


俺は香羽琉を守ろうとボールの方に背を向ける。


だが、ボールは俺の背後で勢いを止めた。


「ありがとう紅葉、守ってくれて、でも大丈夫」


声に反応し目を開けると、凛々しい笑顔を俺に向ける香羽琉の手にはボールが握られている。


「いや、大丈夫って、まさか素手でボールを取ったのか?」

「うん、そうだよ」

「かなりスピード出てたし、大丈夫なわけないだろ!?」

「あははっ、大袈裟だなー、それに僕からすれば、旦那さんが無事なら手の痛みなんて気にならないよ」

そう言って香羽琉は俺に優しく微笑む


「でも、やっぱりちょっと痛いな、だから...後で手当して欲しいな.....ダメ?」


香羽琉はボールを取った手をさすりながら俺にそうお願いしてくる。

てか今のダメ?は可愛すぎて反則だろ。


「あぁ、俺も奥さんが助けてくれたのに恩返しの1つも出来ないなんて嫌だからな」


俺達がそんなやり取りをしていると、ボールを飛ばしたであろう少年たちがやってきた。


「ごめんなさい!僕たちのせいで怪我をさせてしまって、慰謝料でもなんでも払います!」


正直、香羽琉の怪我も酷いものでは無いし、俺達は別に怒ってもいない。謝ってくれたからそれでいいのだが、少年たちの気迫が強すぎて俺は何も言えない状況になっていた。


そんな中、香羽琉は少年たちに落ち着いた表情で語りかけた。


「別に、謝ってくれたならそれでいい。私の怪我も大したものではないし、他に怪我人もいなかった。それに、ちゃんと謝りに来るという行動はとても勇気がいることだよ。きっとそのまま逃げてしまう人間の方が多いだろうね。でも君たちは謝りに来てくれた。それだけで私は嬉しいよ」


そう言って香羽琉は泣いている少年の涙をハンカチで拭い、ボールを少年の手に握らせた。


いや、自分の怪我も顧みずこんなにクールな対応出来るとかカッコよすぎだろ!


少年たちはそのまま、頭を下げて広場の方へと戻って行った。


少年たちを見送り、時計を見るともうすぐ学校が始まる時間になっていた。


「やばい、香羽琉このままじゃ遅刻しちまうぞ、急いで学校に行かねぇと」


そう言って香羽琉の手を取り、学校へと向かおうとしたその瞬間──、


「─ちょっと、触んないでよねっ!」

香羽琉に手を弾かれてしまった。


「わ、悪い。遅刻しそうだったからつい」

謝って学校へ向かおうとすると、香羽琉はもう片方の手を差し出して──


「勘違いしないでよね!こっちの手は怪我してて痛かったから繋げないだけで、手を繋ぐのは嫌じゃないから、さっさと繋ぎなさいよ」


シンプルに可愛すぎかよ!!!


そう、他の人は知らない彼女の秘密。



それは彼女が今日会ってから、4回も人格が変わっている事だ。



最初に抱きついて来た時、ボールを取った時、少年にボールを返す時、俺が手を繋ごうとした時、彼女は人格が変わっている。


そして、その人格の全てがとてつもなく可愛いのだ!


改めて言おう、俺の嫁(仮)は多重人格で可愛い!!!!.....って俺はさっきから誰に向かって言ってるんだ?きっと全人類に違いない!



俺はそんな誰にも届かないであろう愛を心の中心で叫び、彼女と手を繋いで学校へと急ぐのだった。


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