第20話 ダブルデートと男の会話


 前を歩く、彼らの女達はずっと笑いあっている。彼女たちはぴったりとくっついて、ふわふわと楽しそうに揺れる。



「小春さんがとても良い方で、薫子は喜んでいます」


 アダムと名付けられた青年は、ジョニイよりも5cm背が低い。


「こちらこそ、小春ちゃんと友達になってくれて、僕もとても嬉しいです。薫子さんは優しい方ですね」


 ジョニイは5cm顎を下げ、紺色の髪の男に言う。


「はい。薫子はとても優しい子です。優しくて優しくて、僕は甘えてばかりいます」


 アダムは困ったように、けれど幸せそうに笑った。


「アダムくんは薫子さんにとても愛されていますから、それでいいんだと思いますよ」


 ジョニイは前を歩く、愛おしい女を見ながら言う。


「でも、僕はあまり仕事をこなせていないのです。薫子に甘えるだなんて、おかしな話でしょう?子守り専門アンドロイドだというに」


 アダムは続けた。


「それに、ここ最近はおかしいんです。薫子の面倒をみることで得られるはずの達成感が、薫子に触れたり、抱きしめられたりするだけで得られるんです」


 アダムは眉間にしわを寄せていた。彼はとても不安なのだ。ジョニイはそれが痛いほど分かって、二度も深くうなずいた。


「分かります。僕も、持ち主の役に立つことで得られる達成感が、小春ちゃんの寝顔を見たり、体温を感じたりするだけで得られるんです」


 アダムも興味深そうにうなずく。でも、自分だけでないと分かって、ほんの少し安心したようだった。


「私達が知らないだけで、そういう仕様なのかもしれませんね」


 アダムは眉を落として笑って言う。彼も持ち主に似て、気遣いができるアンドロイドなのだ。


「あの……、アダムくんは浮遊感はありますか?僕はたまに知能機械が温かくなって、ふわふわと浮いているような感覚になるんです。そういう日はだいたいバッテリーの消耗が激しい気がするんです」


 ジョニイは不安げに、小春のことを見つめながら言う。小春は薫子に抱きつかれ、笑っている。


「浮遊感ですか……?今のところ僕は感じたことはないですが……」


 それを聞いてジョニイは肩を落とす。しかし、アダムは何かを思い出したようだった。


「あっ!もしかして、足の裏にチャクラあります?僕は搭載されていないんですけど、一部の子守りアンドロイドには、足の裏にチャクラと呼ばれる車輪のようなものがついているんです。それが浮遊感の原因かもしれません!緊急時に素早い移動が可能なのだとか……」


 アダムは嬉々として早口で伝えたが、ジョニイの顔色が優れないことに気がついて声を落とした。


「いえ、僕にも搭載されていません」


 ジョニイが言うと、アダムは申し訳なさそうに、そうでしたか……と言った。


「でもきっと、心配することはないはずです。僕とジョニイくんでは型式も用途も、製造年月日も違いますし。それにもし何かあっても、小春さんは必ずジョニイくんを守ってくれます」


 アダムはジョニイの肩をさする。


「そうですよね……」


 ジョニイは、前を歩く小春を見つめて言った。すると小春がふり返り、ジョニイの目を見て微笑んだ。

 彼はまた一人、幸せな浮遊感を得た。


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