第3話 ついていないのは残念ではない、決して
とてつもなく異常な光景なのだが、小春はしばらくそのままでいたかった。
すっかり綺麗になった部屋の中、人形のように美しい男が素っ裸で自分のベッドに寝転がっている。
小春は腕を組み、ベッドの周りを歩き回って隅々まで観察する。
髪の毛は映画でしか見たことのない綺麗なブロンドで、ふわふわとした毛並み。耳のちょうど真ん中あたりで切りそろえられている。鼻は高く、ちゃんと鼻の穴もあるらしい。唇はほんの少し笑みをたたえて、柔らかそうだ。
まつ毛や眉毛も美しい金色で、皮膚の中に均等に植え込まれている。腕や足にいたっても、金色の細い毛がまるで生えているようにひっそりと存在していた。
特筆すべきは乳首だ。きちんと二つ並んでいる。淡い肌色できちんと乳輪があり産毛さえも植えられている。
「人間みたいね……」
小春は仕事上、アンドロイドと接する機会は多かったが、彼らの裸を見ることは一度もなかった。動作しているものは当然服を着ているし、製作途中のものは皮膚に青いシートのようなものが貼りついていた。
しかし、やはり生殖器はなかった。
アンドロイドが世間に浸透してしばらく経つが、あくまでも彼らは「仕事をする機械」なのだ。ある者はインプットされた作業をし、ある者は指示された家事をする。
アンドロイドの扱いに関しては所有者の自由だが、「性行為の仕事をする機械」にすることは禁止されている。
改造して生殖器をつけ、セクサロイドとして発売したり商売をした者は厳しく罰せられる。だから女性型、男性型ともにアンドロイドには生殖器がない。
「おかしな話よね」
小春は呟いて、何もないアンドロイドの股間を撫でる。
性行為を仕事にしている人間もいるのに、アンドロイドは禁止だなんて変な感じだ。結局は悪いことを考える人間がいっぱいいるから、仕方がないことなのだ。
ひとしきりアンドロイドを観察した小春は、充分に満足した。普段、隠されていて見られないものが見られるのはラッキーだ。
「よし……」
小春は最後に、電源を入れる前にやってみたかったことをするため、準備に取りかかった。
準備といっても、アンドロイドをベッドの端に少し追いやるだけだ。しかし、アンドロイドは普通の人間と同じくらい重いので、結構労力がいる。
「うーん……冷たいからなんか違うわね」
アンドロイドと小春はぴったりとくっついてベッドに並んでいる。
小春は27年間、一度も男性と同じベッドに入ったことがない。
だから、どんなものなのか試してみたかったのだ。しかし、服越しにでも分かるくらい、隣の男は冷え切っていて想像と違った。
「なーんだ」
残念だと思ったが、しかし、横を見るとびっくりするくらい美しい男の横顔があったので、これもよしとした。
二人はしばらく並んで、天井を見上げる。
「何やってんのかしら」
自分の行動に興ざめし、起き上がろうとしたとき、隣から声がした。
「はじめまして、こんにちは。私はアンドロイド。型番JO:021.203539です」
小春はほとんど絶叫して飛び上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます