第4話 はじめましてアンドロイドです


「やっぱり、テストした時の充電が残ってたのかな……」


 小春は正座し、床に広げた取扱説明書にへばりついていた。



 突然自己紹介のあいさつをして、見惚れるほどの完璧な笑顔を浮かべたアンドロイドは、そのまますぐさま目を瞑り、充電切れとなった。


 現在、彼は再び小春のベッドで微動だにしない、ただの重たい機械と化している。


 充電していないアンドロイドが突然しゃべるのは、完全にホラーだった。



 あらかじめ同封されていたシャツとズボンを、重たいだけの機械になんとか着せつける。目を覚ました時に裸だったら恥ずかしいだろう、という小春の気遣いだ。


 さっき目を覚ましたのは一瞬だったので、自分が裸であったことにはどうか気が付かないでいておくれ、と願いながら。



 それにしても、シャツが可哀そうなほどダサかった。小春が勤めていた会社の変なロゴマークが大きくプリントしてあったのだ。


「今度ネットで洋服を買ってあげましょう」


 充電切れのアンドロイドに話しかけると、小春はなんだか楽しくなって、「そうしましょう」とか、意味もなく一人で呟いた。



 充電方法は古典的だった。アンドロイドの首元にあるカバーを外し、ケーブルを差し込む。それをコンセントにつなげればいいというもので、まるで携帯電話だと思った。


 取扱説明書には、アンドロイドが乗るだけで自動充電できるマットみたいなものもあったが、もちろん別売りで舌打ちしたくなるほど高かった。



 アンドロイドを横向きに寝かせ、充電ケーブルを差し込む。ピロンという間抜けな音がしたあと、彼は静かに目を開いた。



「はじめまして、こんばんは。私はアンドロイド。型番JO:021.203539です」



 小春は思わず「おおお……」と唸った。


 あの完璧な笑顔を見せてくれた後、「セットアップに入ります。しばらくお待ちください」と言うと、彼は再び目を閉じた。


 アンドロイドの瞳は、黄色がかった薄い茶色だった。


 今まで一度も見たことのない瞳の色で、宝石みたいでびっくりした。小春は思わず、もう一度見たい、と地団駄を踏んだ。



「あなた、本当にびっくりするくらい綺麗ね」



 小春はそう言ったが、アンドロイドは黙ったまま、いかにも機械らしい音をたてていた。


 頭をそっと撫でると、ふわふわの金色の髪の毛が優しく手のひらをすべった。

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