共働き期

第6話

 私はハローワークに通い、就職先を見つけた。

 なかなか希望と需要がマッチしなかったけれど、 


「成宮なるみです。よろしくお願いします」


 前職を活かせそうな事務職ができる会社を見つけた。私が挨拶すると、みんなが温かい拍手をしてくれた。


「じゃあ、成宮さん。仕事を教えますね」


「はい、お願いします。鈴木係長」


 人当たりの良さそうな男性だった。


(年齢は・・・私より同い歳? って、係長なんだから上かな?)


 同い年くらいの顔立ち。会社によって違うと思うけれど、たくやはまだ係長になれていない。だからさすがに年下ということはないと信じたいと思うけれど、首からぶら下げた名札には「係長」「鈴木翔太」と書かれていた。のちに、彼が一つ年上の31歳だと知るのは別の話だ。


(って、今は男の人に聞くのも失礼よね)


「成宮さん」


「はっ、はい」


 やばっ、無駄なことを考えていたって怒られるかしら。

 たくやなら見逃さない。


(たくやよりも優秀な人ならそういったこともわかってしまうかもっ)


 私がびくびくしていると、


「成宮さんの挨拶、元気が良くて、笑顔も素敵でしたよ。電話対応やお客様対応も期待してますので、その明るさを大事にしてください」


「あっ、ありがとうございます」


 私は頬を赤らめた。

 鈴木係長はかっこいい。

 でも、夫がいる私が恋を感じているわけではない。


(久々に人に褒められたーーーっ)


 それも笑顔。顔だ。

 いつも、笑顔でたくやを見送って、出迎えても褒めてくれることは・・・「最近」ない。褒められることを忘れていた私は、恥ずかしがり屋の小学生のように照れてしまったのだ。


「僕の方こそすいません。お気に触りましたか?」


「いえ、これからも頑張りますっ・・・って、まだ頑張ってなかったから、これから頑張りますっ、ですね。あははっ」


 鈴木係長は紳士的だと思った。


「じゃあ、仕事を教えますので、あちらへお願いします」


 これから、教えてもらう身で、上司なのに鈴木係長は優しく丁寧に仕事を教えてくれた。私は「すぐに戦力になろうと」それを一生懸命メモを取り、覚えた。他の人たちも私の名前を覚えてくれて、声を掛けてくれて、お茶の場所やゴミ箱の場所を教えてくれた。


「お客様のことは徐々に覚えていけばいいからね」


「はい」


「その辺は私が教えます。新山志穂です、成宮さんお願いします」


 私の隣の席の女性。

 肌艶がよくて私よりも若いと思うけれど、とてもハキハキした頼れる姉御肌のような方だった。のちに2歳年下の28歳だと知るのは別の話。


「はい、新山さん。よろしくお願いします」


 私がテンパって深々と頭を下げると、新山さんも同じくらい頭を下げた。姉御肌だけど、相手への敬意も持っている素敵な方だと思った。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る