第5話

 一番大切なこと、それは「りく」だ。

 けれど、たくやを説得するには私も働き、同じテーブルに着く必要がある。


「いやいやいや・・・そんなわけないって」


 そう思いながら、私はご飯の下ごしらえを済ませた。今日はもちろんお風呂も洗ってあるし、すでにりくと私はお風呂を済ませてある。


「うーん」


 昨日大掃除したけれど、2歳のりくがいればすぐに散らかる。けれど、このことはたくやはわかってくれないかもしれない。今日はりくと遊んであげたり、寝不足とかもあって一息入れたいと思いつつ、簡単な掃除を始めた。すると、ラインでたくやから「帰る」と連絡が来た。今どことか、何時に着くとか書いてないけれど、私は「OK」と返信して、今会社を出たか、電車に乗ったところだと推測して、ご飯の準備を再開する。


「ただいま」


(よし、ビンゴ)


 伊達に4年以上夫婦をやっているわけではない。ほぼ出来立ての料理を用意した私は夫のたくやを迎える。


「ご苦労様、おかえりなさい」


 私が笑顔でそう言うとたくやは冷ややかな目をしながら、手首のボタンを外し、


「ご苦労様っていうのは、アナタが苦労するのは無能だからって意味入るから、上の人には使わない」


 と告げてきた。

 ん? 私たちは同い年で、上下はないでしょ?


 と思いながら、私は彼のカバンやネクタイを預かり、食事を食べるように促す。


(召し上がれは・・・尊敬語? 謙譲語?)


 お決まりの言葉だと思いつつ、私は言っていい言葉なのか悩んでいたら、何も言えず、たくやは無言でご飯を食べ始める。


(いただきます、は言ってよ・・・)


 私はたくやの持ち物を片付けて、彼と向かいでりくの隣の席に座り、


「いただきますっ」


 手を合わせてそう言って、りくを見ると、りくも「いただき、ますっ」と笑顔で答えてくれたが、たくやは無関心だ。陰と陽。寡黙に食べるたくやと食材の名前当てクイズにして楽しく食べる私たちの間に見えないアクリル板がある気がした。


「お前さ・・・・・・」


 そんな中、たくやがぽつりと呟いた。


「なに?」


 私が気づき、食材の名前当てクイズを止めると、


「仕事すれば? 俺にばっか頼ってないでさ。そうすれば、ミスに対しての問題意識も上がるし、専業主婦の楽さがわかるからさ・・・っ」


 なにそれ?


 まだ言うの?

 それはお説教なの?

 あなたには落ち度はないの?


 もしかしたら、私の一番のミスはこの男性を―――


 私は机の下で拳を固くして、奥歯を噛みしめた。

 今の私ならたくやに言い返せる。でも、隣を見ると、天使が不安そうな顔をして私を見ていた。私はこの天使が怖いと思わせたくないと思った。 


 りく。

 もしかしたら寂しい想いとかをさせてしまうかもしれない。

 でも、それがあなたの自立や成長につながると信じて・・・いいかな?


「ええ、分かったわ。私、働く。だから、アナタも当然家事をしてよね」

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