第2話
私だって仕事をしていた時期がある。
大学を卒業して、事務職で2年間勤務をしていた。
そんな中で出会ったのがたくやだった。
たくやは頭の回転が早くて几帳面で、たくやに仕事を任せてれば安心だ、と上司からの信頼も厚い男性だった。今思えば些細なことだったけれど、仕事の悩みなど的確なアドバイスをくれて、今でも仕事ができるかっこいい人だと思っている。
そんなたくやと結婚したのだけれど、結婚してすぐたくやが東京から福岡に転勤することになり、私も一緒に行くために仕事を退職した。わざわざ大学まで出たのに退職するのは学費を出してくれた親にも申し訳なかったし、ようやく会社で活躍できつつあった中、辞めることになったのは会社にも申し訳なかった。そして、何より就職も苦労した私にとって、私自身が肩書きが無職になる不安はとても大きかった。でも、たくやとなら大丈夫だと思って、一緒に飛行機に乗って福岡に移住した。
たくやの会社は東京に本社があり、全国展開している。若手職員は研修等を行ったのち、一度は地方勤務することになるらしいのだけれど、2年から3年地方で勤務し、多くの社員が再び本社に戻る。私も福岡で働くかどうか夫婦で相談した結果、子どもが欲しいし、たくや自身自他ともに認めるエリートというやつだったので、1年で東京に帰ってやると意気込んでいたので、私はその間専業主婦を行っていた。
けれど、子どもがすぐできるわけでも、たくやが優秀だからと言って速やかに東京に帰れるわけでもなく、福岡で2年過ごした頃、待望の第一子の男の子りくを授かり、28歳の時に出産した。そして、出産してすぐたくやが転勤になり、再び東京に戻ることになった。あの時は生まれたてのりくがいる中、転勤になったので手続きやら予防注射やらてんやわんやしていたのを覚えている。そういえば、あの時もたくやはお世話になった方への挨拶回りや、お礼の品の準備、本社の上司や先輩、各地に飛んだ同僚への挨拶や情報収集だと言って、ほとんど手続きは私がやったなぁ・・・。まぁ、当時はたくやが出世してくれれば、お給料も増えていくだろうし、りくを寝かしつけて、二人で晩酌した夜は「これで俺たち、私たちも将来セレブ!?」なんて半分冗談で笑い合って夢見てたから全然嫌じゃなかった。というか、あの頃は本当に楽しかったのに・・・のに・・・・・・。
20代が終わって、30代になってたくやの給料もさらに見栄えが良くなるぐらい増えた。だから、三人暮らしできる余裕のあるアパートを借りて、家電だって良い物を揃えているし、りくの英語教育の教材だって買える裕福な暮らしをしている。
けれど、
なんでこんなに忙しいんだろう。
なんでこんなにギスギスしているんだろう。
なんで私は・・・・・・
たくやが帰ってくると怯えているのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます