第6話 バーベキュー大会

 詩織が予定した旅は少し変な方向に向かっているが予定のない旅では想定外の事も多々あるだろう。翌朝、吉岡から電話が入った。バーベキュー大会は夕方だから富良野周辺を案内手してくれると言う。しかし吉岡と言う男、ガラは悪いが人なつこい。人は見かけに因らないというが彼はその典型的な人物であった。ホテルを九時三十分過ぎに出て十時頃到着すると既に家族総出で待っていた。

「さあって、では最初に五郎の家に行って見ようか」

「嗚呼あの石の家と言われている所ですね。昨日ネットで調べました。有名な観光地ね。それからホテルのサービスだと言ってDVDとビデオデッキを貸してくれて北の国からを最終話だけを全部観てしまいました」

「そうかい、そうかい。あれは何度見ても感動するよ」

 三十分もしないうちに五郎の家の前に着いた。柵があるので遠くからしか見られないがビデオでみた画像と違い、かなり傷んでいた。無理もないもう数十年が過ぎているのだから。


 それから途中で食事し富良野と美瑛などパッチワークの丘など周って帰って来た。最初の目的地である美瑛が見られて満足だ。時刻は午後四時過ぎた頃、既に若い衆十五人くらいがバーベキュー大会の準備をしている。吉岡が言う通りあまりガラは宜しくない連中だ。それを束ねる社長だからお人よしでは荒くれ者を引っ張っていけないのも分かる。年齢は下から二十代から上は五十代とマチマチだ。詩織たちが車から降りると連中が寄って来た。詩織を見るなり口笛が鳴る。歓迎しているのか、からかっているのか微妙な感じがする。普通の若い娘ならビビリそうだが凶悪犯やヤクザを相手に仕事している詩織はどうってことはない。そのあとは拍手が起きたから歓迎されているようだ。


 やがて準備が整った。沢山の料理やビールなど飲み物が並べられている。バーベキューなんて大学時代以来で嬉しくなって来た。ただここは知らぬ人ばかり、しかも家族以外は全て男性。その中でひときわ際立っている女性がいた。勿論詩織だ。吉岡が乾杯の音頭をとるようだ。

「まず乾杯をする前に紹介しておこう。昨日知り合ったばかりだが何故か意気投合して今日ここに来てもらった。えっとサカモト……」

 吉岡が下の名前を思い出せないでいると詩織が手を挙げる。

「はいどうも私、東京から来ました。坂本詩織と申します。社長さんとは何故か意気投合致しまして、道産子気質と言うのでしょうか。私も社長さんには惚れこみました」

「よ~よ~社長。奥さんも子供も居るのにいいのかい」

 皆はドッと笑った。社長に惚れこんだと言われ上機嫌になった吉岡は余計なことを言った。詩織は刑事である事を口止めしておくべきだった。

「坂本さんはなんと東京の刑事さんなんだぞ。だがお前たちを逮捕しに来たわけじゃないから安心しろ。ただの旅行だそうだ。こんな美人で刑事なんてテレビドラマのようだろう」


 するとみんなは一瞬驚いたが、また拍手が起き大声で笑った。だが一人だけ表情が曇った者がいる。詩織は見逃さなかった。刑事と言われ反応したのだろう。詩織の記憶力は伊達ではないピンと来るものがあった。そのあと大いに盛り上がりやがてバーベキュー大会は終った。詩織はそっとスマホを開いた。一つのアプリを開く。(指名手配一覧)二分ほどして似たような顏の人物にヒットした。『五年前、池袋管内で強盗致傷事件、三人に重軽傷を負わせ現金三千万を奪って逃走中。荒岩重信 三十七歳』

五年経過しているから多少体形と顔つきは変わっている、しかも髭まである。カモフラージュだろうだが間違いない。詩織は確信した。


つづく

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